悪役令嬢

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4/13/2024, 3:00:10 PM

『快晴』

あたしの名前はモブ崎モブ子!

親戚の伝手で今日からこの
私立ヘンテコリン学園に通うことになったの!
貴族や王族が通うとされる格式高い学校に
平凡な自分が入れるなんて夢にも思わなかった。

空を見上げると初日に相応しい快晴!
これからどんな出会いが待っているんだろう?

期待に胸を弾ませながら門を潜ると、
そこには別世界が広がっていた。

まず初めに目に飛び込んできたのはそびえ立つ大きな城。屋根は澄み渡る空のような美しい青色をしている。
こんなおとぎ話に出てくるような
場所が学校だなんて信じられない!

壮麗な佇まいに圧倒されていると、
誰かとぶつかってしまう。
「あ、ごめんなさい」
「……ちっ」
えっ、今舌打ちされた?
そこにいたのは、銀髪に金色の瞳をしたイケメン。
制服を着崩した感じのスタイルが様になっている。
不良イケメンはあたしを睨むと
人混みの中へと消えていった。
なんなの、あいつ。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
教室に辿り着き、簡単な自己紹介が終わった。
まだ皆手探り状態でどこかよそよそしい。

あたしが緊張でそわそわしていると、
前の席に座る金髪碧眼の正統派美少女が
振り向いて、笑顔で挨拶してくれた。
「これからよろしくね!」
わあ、可愛い。
アイドルみたいな子でモテそうだなあ。

そんな事を考えているとあっという間に時は過ぎて、
待望のお昼休憩がやってきた!

この学園に来て初めての昼食に心躍るモブ子。
今日は数量限定の日替わり定食があるそうだ。
A定食のビフテキが美味しそう!
B定食のロースカツも気になる!
悩んだ末にモブ子はA定食を頼むことにした。

「ご注文は?」
「「A定食お願いします!」」
横を見ると、高飛車な性格(偏見)のお嬢様が
燃えるような目つきでこちらを睨んでいる。

「私が先にA定食を頼みましたわ」
「え、でもあたしの方が前に
並んでましたよね?」
「あなた、私に逆らうおつもり?」

これは一触即発の予感。

「そうよ、メア様に譲りなさい。 この平民が!」
「あんたにはもやし定食がお似合いよ!」
彼女の取り巻きたちが後ろで囃し立てる。

「いじめは駄目ですよ」
凛とした低い声に振り返れば、そこには黒髪の
美青年が立っており、あたしたちの仲裁に入った。

「べ、別にいじめてませんわ。
ふん!行きますわよ、貴女達」
決まりの悪い顔をしながら取り巻きたち
を連れて逃げていく高飛車お嬢様。

「あの、助けてくれてありがとうございます」
礼を言うと、優等生風美青年はにこりと微笑んだ。
「先程のことは気にしなくていいですからね」

はあ、かっこいい…。
立ち去る彼の後ろ姿に見惚れていると、
正統派美少女が心配そうな顔をして駆け寄ってきた。

「モブ子ちゃん大丈夫?」
「うん、全然平気だよ」

それからあたしは正統派美少女と
中庭で一緒に昼ごはんを食べた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
青空がオレンジ色に変わっていく姿を
眺めながらモブ子は今日の出来事を思い出していた。

初日から色んなことがあったなぁ。
とぼとぼと河川敷を歩いていると、
橋の下で今朝の不良を見つけた。
あんな所で何してるんだろう?
バレないように観察していると、
なんとあの不良が箱に入った子犬を
大切そうに抱えて餌を与えているではないか!

その優しげな表情に不覚にもキュンと、
ときめいてしまった。

これが、恋?
もー、ないない!

胸に宿る感情を誤魔化すようにモブ子は
河川敷を時速40kmの速さで駆け抜けた。

モブ子の波乱万丈な学園生活は
始まったばかりである。

つづく

4/11/2024, 1:00:06 PM

『言葉にできない』

これは子どもの頃に体験したお話です。
黄色い雨がっぱを着た悪役令嬢は腕に
何かを抱えながら、一人大雨の中を遊んでいました。

彼女が腕に抱えるもの、
それは魔術師からいただいた桃です。

刺激を与えると何かが起きると教わった
悪役令嬢は、大雨の中それを転がしたり
水溜まりに浮かべたりしながら、今か今かと
その瞬間を待ちわびていました。

すると桃はどんぶらこどんぶらこと流れてゆき、
側溝の隙間に入り込んでしまいました。

「😃✋<Hi❗️」
「ひっ!」
悪役令嬢が下水溝を覗き込むと、中から
道化師がひょっこりと顔を覗かせました。

「😁👉🎈」
(訳:風船欲しいですか?)

赤い風船を持った道化師は子ども目線
でも怪しい人物に見えます。

「知らない人から物をもらってはいけないと、
お父様にきつーく言われてますの」
「🥺」
(訳:ぴえん)

泣き真似をする道化師が今度は
別のものを取り出しました。

「😄👉🍑」
(訳:キミが落とした桃がこちらに…)
「あ!」
それは先程流されてしまった桃でした。

「😗?」
(訳:欲しいですか?)
「ほしいですわ!」

「😏🫴 ゛」
(訳:ならこっちへおいで)

悪役令嬢が小さな手を下水溝の中に伸ばすと、
道化師は彼女の腕をがしりと掴みました。

「😋🍴」
(訳:いただきやす)

その瞬間、道化師が手にしていた桃がパカッと
割れて、中から元気な男の子が飛び出してきたのです。

「我が名は桃太郎!悪い輩は退治する!」
成敗!
桃太郎は手にした刀を道化師相手に
振り下ろしました。

「😵」
桃太郎に一刀両断された道化師はそのまま
下水道の闇へ消えて行きました。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あれは一体何だったのでしょうか?
どうして彼はあのような場所にいたのでしょう?

子どもの頃に体験した言葉にできない不思議な
出来事を、悪役令嬢は今でも偶に思い出します。

4/10/2024, 2:00:19 PM

『春爛漫』

その日、悪役令嬢とセバスチャンは公園に来ていた。

澄み渡る青い空
小鳥たちのさえずり
ざわめく葉の音
散歩道には木漏れ日が差し込み、
地面に咲いたネモフィラが
青い花弁を愛らしく揺らす。

二人の間に優しい風が通り抜けた。
(まだ少し肌寒いですわね…)
悪役令嬢が抱きしめるように両肩を擦ると、
見兼ねたセバスチャンが持参していた
ストールを彼女の肩にそっとかけた。

「風邪をひかないよう気をつけてください」
「ありがとうございます。セバスチャン」

広場まで辿り着くと、見知った顔の者がいた。
その者が杖を振ると、たくさんのしゃぼん玉が
空に浮かび、お日様の光を浴びてきらきらと輝いた。

子どもたちはしゃぎ回り、指先でちょんと突いてから
弾けた姿を見て笑い合ったり、大きなしゃぼん玉を
捕まえようと空に手をのばしたりしている。

「お嬢様ー、セバスチャンー、こんにちはー」
二人の姿に気づいた魔術師が笑顔で手を振ってきた。

魔術師の他にもう一人、知人と遭遇した。
「こんなところで奇遇だね!」
「メインヒロイン!?どうしてここに」
「今日は天気がいいから、外でごはんを食べたら
美味しいだろうなと思ってお弁当を作ってきたの」

彼女が手に抱えていたバスケットの蓋を開けると、
そこにはハムと新鮮な野菜を挟んだパンや、みずみずしい苺と生クリームを包んだクレープが入っていた。

籠の中のご馳走に目を輝かせる悪役令嬢と、そんな
彼女を見てふふっと笑みをこぼすメインヒロイン。
「よかったらみんなで食べましょう」

「お花見ですか、いいですねえ」
いつの間にやら近くに来ていた魔術師が割って入る。

魔術師が杖を振ると、芝生の上に大きな敷物が
敷かれ、ふかふかのクッションや座布団が
ぽん!ぽん!と音をたてながら飛び出してきた。

一同はセバスチャンが魔法瓶に淹れてくれた
紅茶を飲んでホッと一息つく。

ひらひらと舞い散る桜を眺めながら四人は
朗らかな春を堪能したのであった。

4/9/2024, 3:00:02 PM

『誰よりも、ずっと』

「月が綺麗ですわね」

テラスで三日月を眺めながら彼の主は呟く。
その言葉にセバスチャンは何も返せなかった。

三日月は嫌いだ
あの忌々しい夜を思い出すから
満月はもっとおぞましい
自分が制御できなくなるから

「セバスチャン?」
主が怪訝そうに執事の顔を覗き込む。
「すみません、考え事をしていました」
「そう……」

月に照らされた彼女の横顔を見つめていると、
彼は全てを打ち明けてしまいたくなった。

「俺は、いつまでここにいても良いでしょうか?」

セバスチャンは自身の零した言葉が
失言だった事に気が付き、すぐに後悔した。

もしも自分のせいでこの方の名誉に
傷が付くような事があれば、自ら主の元を離れる。
それが従者としてあるべき姿だ。

彼女はその想いを知ってか知らずか、
唇を引き結んだ後、優しい声音で彼に語りかける。

「いつまでだっていなさい。
あなたが私に散々こき使われて、
嫌になって逃げ出したくなるまでね」

セバスチャンは目を見開いた後、
金色の瞳を揺らしながら小さく微笑んだ。

「……あの日、俺を見つけてくれて
ありがとうございます」

彼は主の手をそっと掴んで口付けた。

「あなたが俺の主でよかった」

セバスチャンはそのまま長いあいだ、
彼女の手の甲にキスを捧げていた。

やがて胸がいっぱいになり、
恥ずかしくなって急いでその手を離す。

「申し訳ございません……」
「いいえ、かまいませんわ」
二人の間に沈黙が流れた。

「今日はもういいですわ。
あなたも休んでください、セバスチャン」
「はい。失礼いたします」

執事は深々とお辞儀をしてその場を去った。

「セバスチャン……」

ひとり残された彼女はたまらなくなって、
手を胸の前で握り締め涙を流した。

魔物と人との間に生まれた者に
待ち受ける運命は残酷だ。

どちらにもなり切れず、人々からは忌み嫌われ、
排除され、隠れながら生きていくしかない。

この世の全てを憎み、力のかぎりを出し尽くし、
暴れまわり、魔物と同じように討伐される者も
いれば、自ら命を絶つ者も少なくない。

今まで周りに頼る事も出来ず、一人で生きてきた
彼には、誰よりも幸せになってほしかった。

彼女は夜空に浮かぶ三日月へ祈りを捧げる。
これ以上あの者を苦しめないでほしいと────

4/8/2024, 3:00:04 PM

『これからも、ずっと』

とある小さな村に一人の青年が暮らしていた。
ここは大きな事件も事故もなく、
ゆるやかな時が流れるのどかな村だった。

納屋に藁を運んでいると
突然、誰かに声をかけられる。
それは以前、木から落ちてきたところを
受けとめて助けた少女だった。
地面に落ちていた雛を巣に戻そうとして
足を滑らせたらしい。

「あの、たくさん作ったからよければどうぞ!」
少女から差し出されたクッキーに
目を丸くする青年。
「……ありがとう」
礼を言うと少女は顔を真っ赤にして逃げていった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

近頃、村で飼っている鶏や山羊が
不可解な死を遂げている。

イタチか野犬の仕業だろうと皆が噂していた所
に占い師と名乗る女が村へとやってきた。

女は水晶玉に手をかざしながら、
村人達に静かに言い放つ。

「この村には人狼がいる。そいつを始末しない
かぎり、毎晩、犠牲が出るだろう」

当初は誰もが占い師の言葉を疑った。
しかし青年だけは、
嫌な胸騒ぎを覚えずにはいられなかった。

翌日────
麦畑の方が何やら騒がしい。
青年が現場へ急ぐと、
村人達が集まり何かを取り囲んでいた。
それはまだ幼い子どもの死体だった。

「可哀想に!」
「誰がこんな惨い事を……」
子どもの亡骸には何者かに絞め殺されたような
跡と独特の不快な臭いがついていた。

「見つけた!見つけた!」
占い師の女が興奮した様子で
駆け寄ってきて、青年を指さす。

「この者が人狼よ!間違いないわ!」
村人たちの猜疑心に満ちた目が
一斉に青年へと向けられる。

「その人は嘘つきよ!」
少女が占い師に向かって叫んだ。

「どこかで見覚えがある気がしたの。
以前訪れた町でこの人は詐欺師として有名だった」
「そいつは本当か?」

村人達から問い詰められた占い師は、
しどろもどろになりながら弁解をした。

「ま、まあ、そういった事が全くなかったわけ
ではないけど……、っ、占いだけで
生計を立てていく のは難しいのよっ」
占い師への信用は地に落ちた。

今夜は誰も外へ出るなとの警告が出された。
一方その頃青年は荷造りをしていた。
今すぐこの村を出ていかなければ。

ふと青年はその手を止めた。青年にしか
聞き取れない小さな悲鳴が聞こえてきたのだ。

悲鳴がした方へ走り、勢いよく納屋の扉を
開けた瞬間、強烈な血と精の臭いが鼻を突く。
子どもの亡骸から嗅ぎとったものと同じ臭いだ。

「おまえ、どうしてここに」
そこにいたのは村の地主の息子と
もう一人、男の下で衣服を剥ぎ取られ
人形のように動かない────

青年の心臓がばくばくと脈打つ。
それは、青年を慕い庇ってくれたあの少女だった。

男は開き直ったように青年へ語り始める。
「家畜に手を出すのも飽きてきたところだったのさ。
こいつも下手に暴れなければ死なずにすんだも」

その先の言葉はなかった。
青年が男の首を掻き切っていたからだ。

青年は目を見開いたまま横たわる少女へ
近寄り、血で汚れていない方の手を
額にかざして、その瞼を閉じた。

「いたぞ!」
騒ぎを聞き付けた村人達が
納屋へと駆け込んできた。

地面に転がる二つの死体と
血に染まった半獣の青年。

怒りと恐怖に震える村人達の
後ろで占い師の女が高らかに叫んだ。
「ほらごらんなさい!あたくしの言ったとおり!」

青年は農具を持って襲いかかってくる
村人達を掻い潜り納屋から飛び出した。

畑を、森の中を、ただひたすら駆けて、
追っ手が辿り着けない場所まで来ると、
ようやく青年は足を止めた。

一体、いつまで自分はこんな
生き方をしなければならないのだろうか。

夜空に浮かぶ三日月へ問いかけるが、
月は無慈悲にもただ青年を照らすだけだった。

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