『春爛漫』
その日、悪役令嬢とセバスチャンは公園に来ていた。
澄み渡る青い空
小鳥たちのさえずり
ざわめく葉の音
散歩道には木漏れ日が差し込み、
地面に咲いたネモフィラが
青い花弁を愛らしく揺らす。
二人の間に優しい風が通り抜けた。
(まだ少し肌寒いですわね…)
悪役令嬢が抱きしめるように両肩を擦ると、
見兼ねたセバスチャンが持参していた
ストールを彼女の肩にそっとかけた。
「風邪をひかないよう気をつけてください」
「ありがとうございます。セバスチャン」
広場まで辿り着くと、見知った顔の者がいた。
その者が杖を振ると、たくさんのしゃぼん玉が
空に浮かび、お日様の光を浴びてきらきらと輝いた。
子どもたちはしゃぎ回り、指先でちょんと突いてから
弾けた姿を見て笑い合ったり、大きなしゃぼん玉を
捕まえようと空に手をのばしたりしている。
「お嬢様ー、セバスチャンー、こんにちはー」
二人の姿に気づいた魔術師が笑顔で手を振ってきた。
魔術師の他にもう一人、知人と遭遇した。
「こんなところで奇遇だね!」
「メインヒロイン!?どうしてここに」
「今日は天気がいいから、外でごはんを食べたら
美味しいだろうなと思ってお弁当を作ってきたの」
彼女が手に抱えていたバスケットの蓋を開けると、
そこにはハムと新鮮な野菜を挟んだパンや、みずみずしい苺と生クリームを包んだクレープが入っていた。
籠の中のご馳走に目を輝かせる悪役令嬢と、そんな
彼女を見てふふっと笑みをこぼすメインヒロイン。
「よかったらみんなで食べましょう」
「お花見ですか、いいですねえ」
いつの間にやら近くに来ていた魔術師が割って入る。
魔術師が杖を振ると、芝生の上に大きな敷物が
敷かれ、ふかふかのクッションや座布団が
ぽん!ぽん!と音をたてながら飛び出してきた。
一同はセバスチャンが魔法瓶に淹れてくれた
紅茶を飲んでホッと一息つく。
ひらひらと舞い散る桜を眺めながら四人は
朗らかな春を堪能したのであった。
4/10/2024, 2:00:19 PM