悪役令嬢

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『これからも、ずっと』

とある小さな村に一人の青年が暮らしていた。
ここは大きな事件も事故もなく、
ゆるやかな時が流れるのどかな村だった。

納屋に藁を運んでいると
突然、誰かに声をかけられる。
それは以前、木から落ちてきたところを
受けとめて助けた少女だった。
地面に落ちていた雛を巣に戻そうとして
足を滑らせたらしい。

「あの、たくさん作ったからよければどうぞ!」
少女から差し出されたクッキーに
目を丸くする青年。
「……ありがとう」
礼を言うと少女は顔を真っ赤にして逃げていった。

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近頃、村で飼っている鶏や山羊が
不可解な死を遂げている。

イタチか野犬の仕業だろうと皆が噂していた所
に占い師と名乗る女が村へとやってきた。

女は水晶玉に手をかざしながら、
村人達に静かに言い放つ。

「この村には人狼がいる。そいつを始末しない
かぎり、毎晩、犠牲が出るだろう」

当初は誰もが占い師の言葉を疑った。
しかし青年だけは、
嫌な胸騒ぎを覚えずにはいられなかった。

翌日────
麦畑の方が何やら騒がしい。
青年が現場へ急ぐと、
村人達が集まり何かを取り囲んでいた。
それはまだ幼い子どもの死体だった。

「可哀想に!」
「誰がこんな惨い事を……」
子どもの亡骸には何者かに絞め殺されたような
跡と独特の不快な臭いがついていた。

「見つけた!見つけた!」
占い師の女が興奮した様子で
駆け寄ってきて、青年を指さす。

「この者が人狼よ!間違いないわ!」
村人たちの猜疑心に満ちた目が
一斉に青年へと向けられる。

「その人は嘘つきよ!」
少女が占い師に向かって叫んだ。

「どこかで見覚えがある気がしたの。
以前訪れた町でこの人は詐欺師として有名だった」
「そいつは本当か?」

村人達から問い詰められた占い師は、
しどろもどろになりながら弁解をした。

「ま、まあ、そういった事が全くなかったわけ
ではないけど……、っ、占いだけで
生計を立てていく のは難しいのよっ」
占い師への信用は地に落ちた。

今夜は誰も外へ出るなとの警告が出された。
一方その頃青年は荷造りをしていた。
今すぐこの村を出ていかなければ。

ふと青年はその手を止めた。青年にしか
聞き取れない小さな悲鳴が聞こえてきたのだ。

悲鳴がした方へ走り、勢いよく納屋の扉を
開けた瞬間、強烈な血と精の臭いが鼻を突く。
子どもの亡骸から嗅ぎとったものと同じ臭いだ。

「おまえ、どうしてここに」
そこにいたのは村の地主の息子と
もう一人、男の下で衣服を剥ぎ取られ
人形のように動かない────

青年の心臓がばくばくと脈打つ。
それは、青年を慕い庇ってくれたあの少女だった。

男は開き直ったように青年へ語り始める。
「家畜に手を出すのも飽きてきたところだったのさ。
こいつも下手に暴れなければ死なずにすんだも」

その先の言葉はなかった。
青年が男の首を掻き切っていたからだ。

青年は目を見開いたまま横たわる少女へ
近寄り、血で汚れていない方の手を
額にかざして、その瞼を閉じた。

「いたぞ!」
騒ぎを聞き付けた村人達が
納屋へと駆け込んできた。

地面に転がる二つの死体と
血に染まった半獣の青年。

怒りと恐怖に震える村人達の
後ろで占い師の女が高らかに叫んだ。
「ほらごらんなさい!あたくしの言ったとおり!」

青年は農具を持って襲いかかってくる
村人達を掻い潜り納屋から飛び出した。

畑を、森の中を、ただひたすら駆けて、
追っ手が辿り着けない場所まで来ると、
ようやく青年は足を止めた。

一体、いつまで自分はこんな
生き方をしなければならないのだろうか。

夜空に浮かぶ三日月へ問いかけるが、
月は無慈悲にもただ青年を照らすだけだった。

4/8/2024, 3:00:04 PM