『星空の下で』
ここはドラゴンが住むといわれる山
星空の下で焚き火を囲みながら談笑をする4人組
シャコビ、スズ、パネム、ズブー
彼らは密猟者である。
人間たちの狩りによって年々数を減らし、
今では絶滅危惧種に指定されているドラゴン
そんな数少ない魔物を狙う輩だ。
ドラゴンの牙や鱗や肉は高値で売れる。
焚き火を囲みながら彼らは得た
報酬を何に使うかなどを語り合っていた。
「おい、誰かいるぞ」
「まさか見張りか?」
四人の視界の先、
白塗りされた顔と裂けた様に真っ赤な口をした
道化師が大木から顔を覗かせ、男たちを見つめていた。
「なんだあいつ。気味が悪い」
「山を降りた先に小さな村がある。
そこに住む精神異常者か何かだろ」
「お遊戯会場はここですか?」
「おい、やめろよ」
「😶」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「小便行ってくる」
「ウス」
「気をつけろよ」
「イカレピエロが待ち構えてるかもしれないぞ」
シャコビは暗い森の中へと消えていった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「シャコビ遅いな」
「どうせ大の方だろ」
「ちょっと見てくるわ」
スズは立ち上がり森の中へ足を踏み入れた。
ランタンで辺りを照らしながら
シャコビの名前を呼ぶスズ。
背後から何者かが枝を踏む音がした。
振り返るとそこには先程の道化師が立っていた。
首元にはシャコビがいつも
身につけていた赤いスカーフが巻かれている。
「あいつをどこへやった?!」
「🤭」
道化師は笑っていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
シャコビだけでなくスズまでも帰ってこない。
残されたパネムとズブーは不安に駆られた。
「まさか、さっきのイカレピエロの仕業じゃ」
「そんなわけ」
「俺も見てくる」
「おい待て、パネム!」
とうとう一人残されたズブーは
三人が消えた暗闇を見つめていた。
誰かがこちらへ近付いてくる。
それはシャコビでもスズでもパネムでもなく
あの道化師だった。
手に何かをぶら下げている。
目を凝らして見るとそれはスズの頭部だった。
ズブーは尻もちをついた。道化師はニタニタと
笑みを浮かべながら距離を縮めてくる。
殺される、そんな考えが頭をよぎった次の瞬間
「くたばりやがれ!キ〇ガイ!」
パネムが背後から道化師の頭部めがけて銃を放った。
「🤯⁉️」
道化師の頭が破裂し、中から飛び出してきた
ポップコーンがズブーの足元に散らばった。
「やったか?!」
崩れ落ちる道化師と
顔を手で覆いながらうずくまるパネム。
出来たてホカホカのポップコーンが
パネムの両目に直撃したのだ。
「あああああ目があああああ!」
「パネム!しっかりしろ!」
ズブーがパネムに気を取られている間に、
頭を失った道化師の身体は、
何かを探すようにフラフラと手を彷徨わせている。
道化師の胴体は地面に落ちていた
スズの頭を拾い上げると、自身の首元へ嵌め込んだ。
するとスズの顔はどんどん
白塗りされた道化師の顔へと変貌していった。
「ꉂ😆」
パネムとズブーを見下ろしながら
ケタケタと腹を抱えて笑う道化師
ズブーは命乞いをした。
「頼む、何でも、何でもするから!
俺たちだけは見逃してくれっ!」
「🤔?」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
煌めく星空の下
道化師は陽気な足取りで森の中を歩いていた。
ふと足を止め、手に抱えていた
血が滴り落ちる袋の中身を覗いてニヤリと笑う。
そこには男たちからもぎ取った
金歯や皮膚や臓物が入っていた。
『1つだけ』
『無人島に1つだけ持っていくなら?』
「悩みますわね…でもやはり、セバスチャンかしら」
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現在、悪役令嬢とセバスチャンは無人島にいます。
これはお父様から課せられた、
過酷な環境下で生き抜くための
知恵と経験と忍耐力を試す修行の一環であります。
「あなたは何を持ってきましたの?」
「ナイフです」
悪役令嬢がセバスチャンに問いかけると、
彼は懐からナイフを取り出しました。
ふむ、実用的で悪くないチョイスですわね。
「火打ち石もあればよかったのですが…
俺は魔法が使えないので」
「あら、それならお安い御用ですわ」
悪役令嬢が指をぱちんと鳴らすと指先に
小さな炎が灯り、それを見たセバスチャンは
安堵の表情を浮かべました。
「まずは水の確保ですわね、セバスチャン」
「はい、主」
水、寝床、食料の確保
日没までにやることはたくさんあります。
「主はここで待っていてください。
俺は森の中に何かないか探してきます」
「私も行きますわ!」
森の中を探索する悪役令嬢とセバスチャン。
(喉が乾きましたわ……)
するとセバスチャンがくんと鼻を鳴らしました。
「水のにおいがします」
進んでいくと開けた場所に辿り着き、
煌めく水面が二人の目に飛び込んできました。
「泉ですわ!」
歓喜する悪役令嬢。
透き通った水を掌で掬い取り、口付けようとすると
セバスチャンが制止しました。
「主、そのまま飲んだらお腹壊します」
「まあ、そうでしたわね」
セバスチャンは森の中に群生していた耐水性の
ある木の樹皮で水を入れる容器を作りました。
悪役令嬢はサバイバル魔法入門編に載っていた
『雨水や川の水をろ過する魔法』を使い、
念の為に煮沸もしました。
これで一番心配していた水の問題は解決です。
あとは寝床と食料です。
二人は歩いていると丁度いい洞窟を見つけました。
ここならば雨風を凌げそうです。
集めてきた枯葉や枯れ草を地面に敷き詰めて
日没前に寝床を整えます。
そうこうしている間に日が暮れてきました。
今夜のごはんは浜辺で採取した貝とヤモリです。
捕まえたヤモリは頭を潰した後、
内臓と糞を取り除いてから木の枝に刺して、
火に炙って食べました。
浜辺で取れた貝は外側を岩で砕いてから
身を取り出しこれもまた火を通して食べました。
刺すような日差しが照りつけていた昼間とは
一転、夜は冷えました。
幸い火を焚いていたのと、狼の姿となった
セバスチャンが暖をとってくれたおかげで、
悪役令嬢は寒さに凍えることなく
眠りにつく事ができました。
4日目
悪役令嬢は洞窟の中で蹲っていました。
(私は無人島を甘く見ていましたわ……)
無人島生活は予期せぬ事の連続です。
突然の天候の変化や、蚊や蛇や蠍といった
厄介な敵との遭遇などにより悪役令嬢は
心身ともに疲弊していました。
(嗚呼……早く帰って快適な部屋で紅茶が飲みたい、
ふかふかのベッドが恋しい)
いいえ、弱音を吐くな悪役令嬢。
ここで屈したら悪役令嬢の名が廃る。
悪役令嬢が顔を上げると、狼の姿となった
セバスチャンが何かを咥えて帰ってきました。
それはぐったりとした鹿です。
悪役令嬢は狂喜しました。
その日の晩は捕まえた鹿で豪華な食事を
とる事ができました。
7日目
今日がようやく最終日です。
短いようで長い一週間でした。
今夜は半月。月の光が辺りを照らしています。
二人は浜辺に並んで海を眺めていました。
視線を上に向ければ、空には無数の
星々が瞬いています。
「セバスチャン、ありがとうございます」
「主?」
「私一人だと早々に音を上げていましたわ。
あなたがいてくれて、とても助かりました」
「こちらこそ、あなたがいてくれてよかった」
二人は顔を見合わせ熱い握手を交わしました。
こうして過酷なサバイバル生活を乗り越えた
彼らの絆はより一層深まりましたとさ。
本日4月2日はわたくし悪役令嬢こと
メア・リースーの誕生日ですわ
ハッピーバスデーわたくし
💝🎂 𝙷𝚊𝚙𝚙𝚢 𝙱𝚒𝚛𝚝𝚑𝚍𝚊𝚢🎂🎉
『エイプリルフール』
目を覚ますと知らない場所にいた。
時計も窓もない白くて広い部屋。
コン、コン、コン、コン
扉から妖精のブラウニーがひょっこりと顔を覗かせ、
トレイを持って部屋へと入ってきた。
「お食事をお持ちしました」
「ちょっとあなた、ここがどこだかわかります?」
「奥様の部屋です」
「奥様って誰ですか」
「貴女様です。
あの、お食べにならないのですか?」
「いりませんわ。というか私は奥様ではありません」
「そんな……奥様がお食事をお摂りにならずに
体調を崩されたら、ワタクシめが
旦那様に叱られてしまいます」
怯えた表情を見せるブラウニー。
「そこに置いててちょうだい。後で食べますわ」
ブラウニーが出ていった扉を見つめる。
気配がないことを確認して、ドアノブに手をかけた。
鍵はかかっていない。
扉の先は薄暗い廊下が続いている。
長い回廊を歩いていると、薄紫色の毛並みを持つ
子猫が体を丸めて眠る絵を見つけた。
部屋を出てからどのくらい経ったのだろう。
先程から同じ場所を何度もぐるぐると
行ったり来たりしてる気がしてならない。
視線を横に向けると、子猫が丸まって眠る絵が
壁に掛けられていた。
「この絵、さっきも見ましたわ」
悪役令嬢の声が聞こえたのか、
絵の中の子猫がぱちっと目を開けた。
「寝室に戻るにゃ」
「ねえ、私出口を探していますの。
どこにあるかご存知かしら?」
「出口はないにゃ。だんにゃ様だけが
ここを自由に出入りできるにゃ」
「旦那様って」
「もうすぐだんにゃ様が帰ってくるにゃ。
お外に出てるのがバレたら
またお仕置きされるにゃよ。早く戻るにゃ」
悪役令嬢は子猫の忠告を無視して、
再び薄暗い回廊を歩き出した。
(なんだか気分が悪くなってきましたわ)
ドクドクと脈打つ胸を抑えながらその場に蹲っていると、視線のすぐ先に磨きあげられた革靴が見えた。
顔を上げるとそこには黒いトレンチコートを羽織った魔術師が佇んでおり、こちらを見下ろしている。
「また勝手に部屋を抜け出して、
あなたは本当に手のかかる方だ」
「魔術師」
魔術師は悪役令嬢を抱き上げ歩き出す。
腕の中で暴れる彼女をものともせず、部屋まで連れて
行くと天蓋付きの広いベッドの上に優しく下ろした。
「メア、具合はどうですか?」
「大丈夫ですわ。ところで魔術師、
あなたに聞きたいことが」
「オズワルド」
「?なんですの」
「結婚する時に、お互い名前で呼び合うよう
約束しましたよね?忘れてしまったのですか?」
知りませんわよ、そんなこと。
あ、わかりましたわ。この者がまた私に
おかしな呪文をかけてからかっているにちがいない。
それなら全て合点がいく。
魔術師の端正な顔に手を滑らせ、名前を呼ぶ。
頬を撫でる彼女の手を握り優しく微笑む魔術師。
「オズ、私を見てください」
「はい、メア」
「そこをどきなさい」
「いやです」
「ここから出してください」
「いやです」
「術を解きなさい」
「いやです」
「っ、私の命令が聞けないというの?!」
「私はあなたの従者ではありませんよ」
目を見開く彼女を押し倒して魔術師は耳元で囁く。
「ここにある物の一体どこまでが嘘か真か、
あなたには見抜けますか、メア」
悪役令嬢の唇を指先でなぞりながら
魔術師は紫色の目を細めて笑った。
『幸せに』
細い裏路地を通り抜けた先、
蔦に絡まれたレンガ作りの建物が姿を現した。
ここは知る人ぞ知る『魔術師のお店』
重厚な木製のドアを押し開けると、
店内からお香や薬草、焼きたてのパンプキンパイ
のような甘い匂いが漂ってきた。
動くカブトムシチョコを使って対戦する男の子たち、
指にはめた宝石キャンディを見せあう女の子たち。
受付には緑色の肌をしたホブゴブリンが立っており、
店の奥では妖精のブラウニーが、
ぐつぐつと煮え立つ大鍋を
大きな木のスプーンで掻き回していた。
鍋の中の液体を紙で出来たコップに注いで、
子ども達に手渡している。
「一杯どうぞ!」
差し出された泡立つ緑色の液体からは
何やらうめき声が聞こえてくる。
(これ飲んでも大丈夫なんですの…?)
恐る恐る口に含んでみる悪役令嬢。
(あら、結構いけますわね。見た目はアレですけど)
「にゃ~ご」
突如、頭上から鳴き声がした。
見上げると紫色の毛並みをした猫がにんまりと
笑いながら空中をぷかぷかと浮いている。
「にゃにか買っていくにゃ~」
悪役令嬢の頬を桃色の肉球でふにふにと押してくる。
「こら、チェシャ猫。
お嬢様を困らせてはいけませんよ」
いつの間にか背後にいた魔術師が長い指で
チェシャ猫の顎を撫でると、チェシャ猫は
気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。
「お店、繁盛してますわね」
「はい、皆が幸せになれるような商品をご提供する事
こそが私の目標。本当にありがたいです」
「殊勝な発言ですけど、あなたが言うと
なんだか胡散臭く聞こえますわ」
「ところで今日はどういったご用件で?」
「次の任務で使うための変身薬が欲しいんですの。
取り揃えています?」
「はい。そういえば、婚約者から
情報を盗み出す件はどうなりました?」
事の一部始終を魔術師に話す悪役令嬢。
「なるほど……剣を所持しているのは王都にいる
王族の誰かまでは絞れたという事ですね」
「ええ、もっと聞き出しておけばよかったですわ」
「十分ですよ。……お嬢様、もし、婚約破棄
されなかったらそのまま結婚していましたか」
「いいえ、きっとどこかで綻びが出たと思いますわ。
それに、どうせなら愛し合う者同士で
結ばれたいですし……」
「へえ…そういえば明日は『嘘をついても良い日』
みたいですね。ご存知でしたか?」
「ええ、それがどうかしました?」
「お嬢様が幸せな夢を見られるように、
私がおまじないをかけておきますね」
魔術師は口元に人差し指を当て妖しく微笑んだ。
(また何か企んでいますわね……)
悪い輩が入ってこないように
明日はしっかり戸締りしておかなくては。
悪役令嬢はそう決心したのであった。
『何気ないふり』
「グラム殿下」
騎士が己の主君に声をかけた。
「ここ最近の貴方はずっと塞ぎ込んでおられる」
国王陛下が病に倒れてからずっと、彼はこの国の未来
を憂いている。その重荷は常人には計り知れない。
「近頃、王都近辺に魔物が出没するように
なったとの報告を受けた」
「はい」
「幸いまだ犠牲者は出ていないようだが……、
"あれ"があるかぎり王都の中にまでは
入ってこられまい。だが、それも時間の問題だ」
「貴方はその件について悩まされていたのですか?」
「それだけではない。最近、議会派が日増しに勢力を
付け始めている。彼らに対して強く出れない
この俺に、貴族たちもきっと呆れ返っている
事だろう。俺は自分が情けない」
「殿下、少し休息を取られた方がよいかと」
「へシアン。お前は、俺の味方でいてくれるか?」
青い瞳が、最も信頼を寄せる騎士へと向けられる。
「……はい、殿下」
騎士に胸の内を吐露して少し落ち着いたのか
グラムはある相談を持ちかけた。
「へシアン、お前に頼みがある」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「メインヒロイン!次こそはあなたに決闘を
申し込みますからね!」
「うん!わかった!」
友人(?)から宣戦布告を受けている娘を
ローブを着た二人組が物陰から見つめていた。
「リディル」
名前を呼ばれて娘は振り返る。
「兄さん?」
彼女は顔を綻ばせながら二人へ近付いてきた。
「まあどうしてここに?」
「お前の顔が見たくて抜け出してきたんだ」
「そうなんだ。へシアン、あなたも一緒なのね」
「はい」
横にいる騎士に視線を向けると、
彼は深々とお辞儀をした。
「何かあったの?」
「別に、何でもない。ただお前に会いたかったんだ」
何気ないふりをして見せたが、兄の目の下に
色濃く浮かぶ隈や青白い顔を見て娘は何かを察した。
「兄さん、へシアン。
今日はうちで夕飯食べていかない?
街で食材をたくさん買い込んだから、
二人に腕によりをかけたご馳走を振る舞うよ!」
娘は張り切った様子で二人の手を引く。
グラムとへシアンは顔を見合わせて笑みを漏らした。
何気ない思いやり。
それだけでどれほど救われる者がいるか。
グラムは妹の柔らかくて温かな手を
ぎゅっと握り返した。
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長文妄想すみません😱
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