悪役令嬢

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『何気ないふり』

「グラム殿下」
騎士が己の主君に声をかけた。
「ここ最近の貴方はずっと塞ぎ込んでおられる」

国王陛下が病に倒れてからずっと、彼はこの国の未来
を憂いている。その重荷は常人には計り知れない。

「近頃、王都近辺に魔物が出没するように
なったとの報告を受けた」
「はい」

「幸いまだ犠牲者は出ていないようだが……、
"あれ"があるかぎり王都の中にまでは
入ってこられまい。だが、それも時間の問題だ」

「貴方はその件について悩まされていたのですか?」
「それだけではない。最近、議会派が日増しに勢力を
付け始めている。彼らに対して強く出れない
この俺に、貴族たちもきっと呆れ返っている
事だろう。俺は自分が情けない」

「殿下、少し休息を取られた方がよいかと」
「へシアン。お前は、俺の味方でいてくれるか?」

青い瞳が、最も信頼を寄せる騎士へと向けられる。
「……はい、殿下」

騎士に胸の内を吐露して少し落ち着いたのか
グラムはある相談を持ちかけた。
「へシアン、お前に頼みがある」

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「メインヒロイン!次こそはあなたに決闘を
申し込みますからね!」
「うん!わかった!」
友人(?)から宣戦布告を受けている娘を
ローブを着た二人組が物陰から見つめていた。

「リディル」
名前を呼ばれて娘は振り返る。
「兄さん?」
彼女は顔を綻ばせながら二人へ近付いてきた。
「まあどうしてここに?」
「お前の顔が見たくて抜け出してきたんだ」
「そうなんだ。へシアン、あなたも一緒なのね」
「はい」
横にいる騎士に視線を向けると、
彼は深々とお辞儀をした。

「何かあったの?」
「別に、何でもない。ただお前に会いたかったんだ」
何気ないふりをして見せたが、兄の目の下に
色濃く浮かぶ隈や青白い顔を見て娘は何かを察した。

「兄さん、へシアン。
今日はうちで夕飯食べていかない?
街で食材をたくさん買い込んだから、
二人に腕によりをかけたご馳走を振る舞うよ!」

娘は張り切った様子で二人の手を引く。
グラムとへシアンは顔を見合わせて笑みを漏らした。

何気ない思いやり。
それだけでどれほど救われる者がいるか。
グラムは妹の柔らかくて温かな手を
ぎゅっと握り返した。


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長文妄想すみません😱
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3/30/2024, 6:27:40 PM