悪役令嬢

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『1つだけ』

『無人島に1つだけ持っていくなら?』
「悩みますわね…でもやはり、セバスチャンかしら」

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現在、悪役令嬢とセバスチャンは無人島にいます。
これはお父様から課せられた、
過酷な環境下で生き抜くための
知恵と経験と忍耐力を試す修行の一環であります。

「あなたは何を持ってきましたの?」
「ナイフです」

悪役令嬢がセバスチャンに問いかけると、
彼は懐からナイフを取り出しました。
ふむ、実用的で悪くないチョイスですわね。

「火打ち石もあればよかったのですが…
俺は魔法が使えないので」
「あら、それならお安い御用ですわ」

悪役令嬢が指をぱちんと鳴らすと指先に
小さな炎が灯り、それを見たセバスチャンは
安堵の表情を浮かべました。

「まずは水の確保ですわね、セバスチャン」
「はい、主」
水、寝床、食料の確保
日没までにやることはたくさんあります。

「主はここで待っていてください。
俺は森の中に何かないか探してきます」
「私も行きますわ!」

森の中を探索する悪役令嬢とセバスチャン。
(喉が乾きましたわ……)
するとセバスチャンがくんと鼻を鳴らしました。
「水のにおいがします」

進んでいくと開けた場所に辿り着き、
煌めく水面が二人の目に飛び込んできました。

「泉ですわ!」
歓喜する悪役令嬢。
透き通った水を掌で掬い取り、口付けようとすると
セバスチャンが制止しました。

「主、そのまま飲んだらお腹壊します」
「まあ、そうでしたわね」

セバスチャンは森の中に群生していた耐水性の
ある木の樹皮で水を入れる容器を作りました。

悪役令嬢はサバイバル魔法入門編に載っていた
『雨水や川の水をろ過する魔法』を使い、
念の為に煮沸もしました。

これで一番心配していた水の問題は解決です。
あとは寝床と食料です。

二人は歩いていると丁度いい洞窟を見つけました。
ここならば雨風を凌げそうです。
集めてきた枯葉や枯れ草を地面に敷き詰めて
日没前に寝床を整えます。

そうこうしている間に日が暮れてきました。
今夜のごはんは浜辺で採取した貝とヤモリです。

捕まえたヤモリは頭を潰した後、
内臓と糞を取り除いてから木の枝に刺して、
火に炙って食べました。
浜辺で取れた貝は外側を岩で砕いてから
身を取り出しこれもまた火を通して食べました。

刺すような日差しが照りつけていた昼間とは
一転、夜は冷えました。

幸い火を焚いていたのと、狼の姿となった
セバスチャンが暖をとってくれたおかげで、
悪役令嬢は寒さに凍えることなく
眠りにつく事ができました。

4日目
悪役令嬢は洞窟の中で蹲っていました。
(私は無人島を甘く見ていましたわ……)

無人島生活は予期せぬ事の連続です。
突然の天候の変化や、蚊や蛇や蠍といった
厄介な敵との遭遇などにより悪役令嬢は
心身ともに疲弊していました。

(嗚呼……早く帰って快適な部屋で紅茶が飲みたい、
ふかふかのベッドが恋しい)

いいえ、弱音を吐くな悪役令嬢。
ここで屈したら悪役令嬢の名が廃る。

悪役令嬢が顔を上げると、狼の姿となった
セバスチャンが何かを咥えて帰ってきました。
それはぐったりとした鹿です。
悪役令嬢は狂喜しました。

その日の晩は捕まえた鹿で豪華な食事を
とる事ができました。

7日目
今日がようやく最終日です。
短いようで長い一週間でした。

今夜は半月。月の光が辺りを照らしています。
二人は浜辺に並んで海を眺めていました。

視線を上に向ければ、空には無数の
星々が瞬いています。

「セバスチャン、ありがとうございます」
「主?」
「私一人だと早々に音を上げていましたわ。
あなたがいてくれて、とても助かりました」
「こちらこそ、あなたがいてくれてよかった」

二人は顔を見合わせ熱い握手を交わしました。
こうして過酷なサバイバル生活を乗り越えた
彼らの絆はより一層深まりましたとさ。

4/3/2024, 1:21:01 PM