『たった1つの希望』
「魔術師さま、どうかあの娘を
元の姿に戻してくれませんか」
村人に連れてこられた小屋の中には、
虚ろな目で宙を見上げる一人の女性がいた。
頬は痩けて手足は枝のように細く
力を入れたら折れてしまいそうだ。
「美しい娘だったのに、
悪い男に捕まって薬漬けにされた挙句
壊れたら捨てられてしまって可哀想に」
女性はこちらに気がつくと細い身体を引きずりながら
甘い声を出して近寄ってくる。
「あぁ、やっと迎えに来てくれたのですね」
女性の鳶色の瞳には何も映してはいない。
村人はそんな娘を見て溜息を零す。
「ずっとこんな調子で困ったもんですよ」
ふと彼女の足元に目をやると、
鎖のちぎれたロケットが落ちていた。
中を開くと溌剌とした顔立ちの女性と彼女より少し
幼い顔立ちの子供、そして二人の肩を抱く男性が
笑顔で映る写真がはめ込まれていた。
女性と同じ鳶色の目をした子供と男性は
きっと彼女の家族なのだろう。
虚空に向かって笑いかけ何かを囁く女性を
魔術師はじっと見つめる。
彼女は今どんな夢を見ているのだろうか。
自分を捨てた男か、あるいは家族か。
彼女の瞼の奥に宿る希望を覗いてみたかった。
『現実逃避』
私は毎日してますわよ
ある時は世界を救う勇者になったり
またある時は皆から愛されるプリンセスになったり
実に忙しいですわ
自分ではない別のなにかになりたい
ここではない別のどこかにいきたい
「悪役令嬢」を演じるのもそのためですわ
私は私の妄想を励みに生きていくことにしますわ
いつも読んでくださる方々ありがとうございます
とても励みになっておりますわ!
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あとがき
誤字脱字や拙い文章でわかりづらいところが
多々ありますが、いつも読んでくださり感謝です!
何度も消そうかと考えましたが、
そんな時にいいねをもらって嬉しかったです😭
本当にありがとうございます( ߹𖥦߹ )
私も皆様の作品を拝見させていただいております。
日常の話から小説までジャンルが豊富で、
毎回楽しみにしながら読ませてもらっています☺️
お忙しい中、作品を挙げてくださる方々に感謝を🙏
よければ、これからもよろしくお願いいたします!
『小さな命』
「ペットを飼ってみませんか?」
魔術師がそう語りかけてきました。
「ペットはいいですよ。余計な言葉を話さず、
飼い主に寄り添い、癒しを与えてくれますから」
魔術師は懐から青い色の小さな物体を取り出します。
「それは一体?」
「スライムです」
スライム?生き物なのでしょうか?
指で突くとぷるんと小さな身を揺らします。
私はお祭りで買ったスライムを思い出して、
なんだか懐かしい気持ちになりました。
「何を与えたらいいの?」
「なんでもいいですよ。この生き物は雑食ですから。
ただし、守ってほしいことが3つあります」
・水に濡らさないこと
・光魔法を当てないこと
・夜中の12時を過ぎてから食べ物を与えないこと
「守らなかったらどうなりますの?」
「よからぬ事がおこります」
よからぬ事ってなんですの??
それから私は魔術師に押し付けられるような形で
スライムを飼うことになりました。
夜更けに本を読んでいると、スライムがそろりと
近づいてきて私の指に縋り付きます。
「あら、お腹が空いているのかしら?」
時計の針を見ると11時の方角を指していました。
まだ大丈夫ですわね。
私はセバスチャンが夜食に焼いてくれた
クッキーをスライムに与えました。
するとスライムはその小さな体でクッキーを
包み込み、ゆっくりと時間をかけて
吸収していきました。
私はこの時気づいていなかったのです。
時計が壊れて動かなくなっていたことに。
翌朝、私は目を覚ますと
ある変化が起こっていました。
昨日まで1匹だったスライムが2匹に
増えていたのです。
分裂したのでしょうか?
本当に不思議な生き物ですこと!
『同情』
路地裏で犬を拾いました
それはひどく汚れており傷だらけで
やせ細っていて骨が浮いていました
屋敷へ連れて帰った私はお風呂に入れて
毛並みを乾かしふかふかのブランケットに包みます
起きてからもその犬は何も口にせず
いつも部屋の隅に丸まっていました
近づこうとすれば牙をむき出しにして威嚇します
その金色の瞳は何かに怯えているようにも見えました
ある日のことです
犬の様子を見に行くとそこには人間がおりました
こちらを睨みつけているその瞳も髪の色も
あの犬のものだと私は気づきました
「なぜ助けた」
なぜ?私にもわかりません
同情、憐憫、興味、好奇心、或いは…
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
それが彼との出会いです
今では名前を呼ぶとすぐに私のもとへ
駆けつけてくれる頼もしい相棒です
ね、セバスチャン
『お気に入り』
今日は我が領地である農村に来ております。
庶民たちがどのように暮らしているのか
知っておく事も大切でしょう?
例えば住むのが難しいほど
古びた家屋が建ち並んでいるのであれば
改修工事を行わなくてはなりませんし、
病気や怪我で働けない者がいたら
彼らの援助をしなければなりません。
それが貴族の務めだからです。
道なりを歩いていると小屋の前に
何やら人だかりができています。
そこには村の子供たちと
彼らに囲まれる魔術師がおりました。
「魔術師さま、魔法見せてくれよ!」
魔術師が杖を振ると透明な蝶々が飛び出してきて、
子どもたちの周りを舞い始めました。
それは水で作られた蝶でした。
触れようとすると蝶は弾け、
小さな虹が出来上がります。
それを見て嬉しそうにはしゃぐ子どもたち。
私はその様子を木陰からひっそりと眺めていました。
「さあ、今日はこれでおしまい」
また来てね-!と言う子どもたちと
手を振りながら彼らを見送る魔術師。
子どもたちが去ったところを見計らって、
私は魔術師に話しかけました。
「あなたが子ども好きだなんて知りませんでしたわ」
物陰から突如かけられた声に驚きもせず、
魔術師はこちらへと振り向き、にこりと微笑みます。
「子どもたちの笑顔は宝ですから」
その表情は大人相手に怪しげな魔法や道具を売り捌いている時の不敵な笑みではなく穏やかなものでした。
「そう…あなたのお気に入りと言っていいのかしら」
「そうですね。ですが、一番のお気に入りは…」
いつの間にか魔術師は顔が触れるほど
近くに来ていました。
間近で紫色の瞳と目が合いゴクリと喉を鳴らします。
「お嬢様をからかう事です」
…ん?何かが胸元でガサゴソと蠢いています。
恐る恐る目線を下げると、
思わず飛び上がりそうになりました。
ね、ね、ねずみ?!いえ、これはハムスター?
服の間からひょっこりと顔を覗かせるふわふわの
小さな生き物に私は唖然としました。
どうしてこんなところにハムスターが?!
さてはあなたの仕業ですわね魔術師。
成敗してやりますわ!こら待ちなさい!!