「もっと知りたい」
いつもなら恥ずかしいからと抱きつくのを嫌がる先輩が
今日は何も言わず私を受け止めてくれている。
どれくらい先輩に抱きついていただろう
気が付けば最終下校のチャイムが鳴っている。
入口の方で物音がするが多分図書委員の人が帰る支度を始めているのだろう。
「落ち着いたか?」
「とりあえずここ出るぞ」
私が頷くと先輩は二人分の鞄を持ち優しく頭を撫でてくれた。
学校を出て駅までの道のりお互い一言も交わすことなく歩き続けた。
「なぁ…」
「あの…」
「あっ、せ、先輩からどうぞ」
「お、おう…」
「公園…ちょっと寄ってくか?」
「はい…」
駅の近くにある極ありふれた公園
日も傾いてきたこともあり公園内は私達以外誰もいない。
ベンチに並んで座り先輩は鞄の中からジュースを取り出し私に渡してくれた。
「ほれ」
「ありがとうございます」
「で、どうしたんだ今日は?なんかこう、らしくないというか…」
いきなり本題がきてしまった…
頑張れ私…頑張れ私…
何度も何度も頭の中で繰り返す…
私は大好きなジュースを一口のみ、大きく深呼吸をする。
「先輩っ」
私は先輩の目を真っ直ぐ見つめた。
「私…先輩のこと好きです!大好きです!」
言った…言ってしまった…でも後悔はない…
「はぁ~」
先輩は大きなため息を吐き顔を背けてしまった。
でも私は見逃さなかった。先輩の目が真っ赤になっていたことを。
もう引かない…いくんだ私!
「先輩といる時間がとても心地よくて
先輩を見かけるだけでドキドキして
先輩の声を聞くだけで嬉しくて泣きそうになって
でももうそれだけじゃ足りなくて
わがままかもしれないけど
先輩のこともっともっと知りたくて
…どうしょうもなくて
先輩!私と付き合ってください!」
「平穏な日常」
部活が長引き遅くなってしまった。
歩くスピードが徐々に早くなる。
いつの間にか小走りになっている。
早く先輩に会いたい…
「じゃぁ放課後、図書室にいるわ」
息を切らしながら図書室の前に着き扉に手をかけた瞬間どうしょうもない不安に苛まれた。
先輩…待っててくれてるよね…
「ふぅーっ」
乱れた息を整え意を決して図書室の扉を開けた。
あたりを見渡すと一番隅の窓際の席に頭を伏せて寝ている先輩が見えた。
机の上には私の好きなジュースが置いてある。
「はぁ~何なんですか…先輩…ズルすぎます…」
私は先輩の隣に座り寝顔を見つめていた。
「寝顔初めて見たなぁ、私のはいつも見られてるけど…」
「先輩…私の知らない先輩…まだまだたくさんある」
「もっともっと知りたい…」
「先輩…好きです…」
つい言葉に出てしまった。
「俺も…お前が好きだよ…」
「えっ!」
鼓動が早くなる。感情が溢れ出しそうになる。
気を許したらすぐにでも泣いてしまう。
「すぅ~すぅ~」
「寝言?」
私はいっきに身体の力が抜け床に座り込んでしまい
と同時に抑えていた涙が溢れ出した。
「先輩…夢の中だけど…私のこと…」
「それだけのことなのに…こんなにも嬉しい…」
「んん〜っ」
「うおっ!お前来てたのかよ!…なんで泣いてんだ?」
「どうした?」
戸惑ってどうしていいか分からない様子の先輩に
私は感情のままに抱きついた。
先輩との日々を少しずつ変えたくて
でもそれだけじゃ足りなくて
あんなの聞いたら私…もう戻れない…戻りたくない…前に歩き出すって決めたんだ
この感情をもう止められない…
今日先輩に全部届けるんだ。
「愛と平和」
愛と平和は全くの別物…
今の私がそうだから…
先輩の登校時間に合わせて私も登校する。
昼休みは屋上に向かう。
たまに部活をサボって一緒に駅まで帰る。
先輩との接点を増やしたくて…
でも先輩との距離はなかなか縮まらない…
もっとおしゃべりしたい…
もっと一緒にいたい…
もっと触れ合いたい…
もっと私から踏み出さなきゃ…時間がない…
卒業してしまったらそれで終わり。
先輩のことだから私のことなんて忘れてしまうだろう。
そんなの絶対ヤダ!
でも告白をする勇気はない…
先輩には何故か人との距離を置こうとするものを感じる。
今告白をしてもだめなことが分かる。
分からない…どうしたらいいのか…
私はいつものように屋上で先輩の肩に寄りかかり、目を閉じていた。
「起きろ、そろそろ行くぞ」
先輩の声が聞こえたとき、私の中でどうしょうもない感情が溢れ出した。
「ヤダ!」
私は駄々をこねる子供のようになってしまっていた。おそらく顔も歪み涙目になっていただろう。
立ち上がろうとしていた先輩はそんな私の異変に気付いて、立ち上がるのを止めまた私の横に腰を下ろした。
「どうした?!なんかあったか?」
先輩の優しい声が私の胸に鋭く刺さる。
こんな私を見て先輩は今何を考えているのだろう。
こんな欲望まみれの私を先輩は好きになってくれるのだろうか。
私は気持ちを押し殺し精一杯明るい声で
「やだなぁ先輩、ちょっと怖い夢見ただけですよ、心配しちゃいましたか先輩?」
「なんだそりゃ、てか夢見るほど寝てんじゃねぇよ」
「ほら、行くぞ」
先輩は頭をガシガシかきながら立ち上がり私に手を差し出してくれた。
「なぁ、今日一緒に帰るか?」
「えっ」
突然のことに私は声を失ってしまった。
「嫌ならいいんだ嫌なら、てか部活あるしなお前、今の無し忘れてくれ」
「え〜!!勝手に誘って勝手に無しにしないでください!」
「先輩から初めて誘われて戸惑ってしまって」
「帰りたいです!一緒に帰りたいです!」
「おお、そうか…でも部活あるだろ」
「休みます」
「お前なぁ…最近ちょくちょく部活休んでるだろ?」
「うっバレてます?」
「そりぁ…部活休むのはダメだ!終わるまで待っててやるから」
「ホントですか先輩!わかりしました。絶対待っててくださいよ!」
「おう」
先輩は気恥ずかしそうに顔をそむけ歩き出してしまった。
「ありがとうございます」
私はそう呟き先輩におもいっきり抱きついた。
「過ぎ去った日々」
中学2年の夏休み前、人生語るほど長くは生きてないけれど
たった一度だけ告白をしたことがあった。
その相手とは小学校からの友達でよく一緒にも遊んだし、何でも話し合える仲だった。
「ごめん、友達以上には見れない」
そんなありふれた断りの返事を聞くことに全く準備していなかった俺は、その場で立ち尽くしてしまった。
それ以降彼女とはあまり話さなくなり距離ができてしまった。
あんなことしなければ…現状のままでいれば良かった…
後悔しかなく…俺は歩き出すことを止めた…
「せんぱーい」
「だから抱きつくな!」
「なんでですか〜こんなに可愛い後輩が抱きついてるんですよ〜ホントは嬉しいですよね」
「嬉しくないから、恥ずかしいだけだから、あと自分で可愛いってどうなの」
俺はこの後輩にからかわれているだけだろう。
多少なりとも好意があるのだろうが、それがどれほどのものなのか俺には分からない。
今偶然会ったこの時間、屋上での昼休みの時間、俺はそれだけで十分だ。このままこの関係を壊したくない。
だから俺は歩き出すことを止めた…
「お金より大事なもの」
お金で買えないものははない…確かにそう思う。
お金はいろいろなものと安易に結びつく。
それは目に見えないものであってもだ。
だから私にとって「お金より大事なもの」の定義は
「お金と結びつけたくないもの」
ただこれは、年齢、環境、社会的地位などによって
絶えず変化している。
家族、恋人、友人はたまた恋、こころ、友情、などなど過去にはそう思っていた時期があったように思う。
最近、この場を借りて拙い文章を書いているが
今の私にとってこのアプリでの自分の文章、皆さんの文章が「お金より大事なもの」である。
…明日には変わっているかもしれないけれど(笑)