小さな幸せ
「これあけて!」
幼い娘が紙皿が入った袋を持ってきた。
どうやら、それで遊びたいらしい。
開けて1枚渡すと、ありがと!と言ってどこかへ行ってしまった。
しばらくしたら、部屋から出てきた。
「みてみて!これ娘ちゃんがはったの!」
紙皿の周りにはキラキラとしたシールが外側に隙間なく貼られている。
「わっ!凄いね!綺麗だね!」
私は思わず声を上げた。
それはまるで、娘の心の内側を表してるようで、母である私も嬉しくなった。
記憶
私の記憶は1日持たない。
約1年前くらいらしい。
らしいというのは、自分の日記にそう記してあったからだ。
それは、今一緒に住んでいる彼と出逢った頃かららしい。
彼は私に一目惚れして、今はせっせと私の身の回りの世話をして、私の生活費を稼いでくれている。
正直ありがたい話だ。
それと同時に申し訳ない気持ちにもなる。
私は自分のことで精一杯で、彼の気持ちには一切応えられない。
何も与えられないのだ。
彼は、君は君のままでいい。
僕のそばにいてくれさえすればいいんだよと言ってくれた。
でも、私は申し訳ない気持ちで押しつぶされそうだ。
私は寝る前に今日あった出来事を日記に書いたあと、ノンカフェインの紅茶を飲み干した。
紅茶が入ったティーカップが二つローテーブルに並んでいる。
片方は、転がっていて、テーブルを濡らしてしまっていた。
その下にはソファーにぐったりと横になる女性がいる。
やった、やっと彼女が手に入った。
僕は彼女の恋人でも、友達でも、親族でも何でもなかった。
ただ、たまたま駅ですれ違って一目惚れした。
色素の薄い茶色の瞳、キラキラと陽光に照らされた髪の毛。
ひと目見た瞬間、彼女しか僕の隣にいる人はいない!と強い衝撃が走った。
僕は彼女を尾行して、彼女の生活拠点や、人間関係を知り、偶然を装い、彼女と知り合いになった。
そして、友達と呼べるくらいにはなった。
部屋へ呼び、紅茶を飲ませた。
これにはとある薬が入れてある。
彼女は眠っているが、単なる睡眠薬ではない。
記憶喪失になる薬だ。
記憶は1日しか持たない。
これは僕がこっそり開発した薬で、世界のどこにもない物だ。
それを飲ませた。
彼女はきっと、僕のことだけを頼り、やがて僕だけを熱い目で見つめることになるだろう。
手を繋いで
幼い子供と手を繋いで歩く。
近所の公園や、最寄りスーパーや市民センター、病院など。
小さな手は段々と大きくなり、あと数年もしたら手を繋いで歩くことはなくなるだろう。
私自身はあまり成長はしないのに、子供はどんどんと心も体も大きくなっていく。
成長は嬉しいけれど、何故か、取り残された気分になる。
ああ、やっぱり私の心は昔、母に傷付けられた幼い少女のままなのかもしれない。
せめて、子供の心は傷付けないようにしたい。
私の二の舞いにはなってほしくないから。
叶わぬ夢
中学生の頃だろうか、小説家になりたいと思った。
でも、それは叶わぬ夢だ。
中学生にもなると自分の実力は大体分かってくる。
それでも30代の今、その夢は叶わぬ夢ではなく、叶えたい夢になった。
何故だろうと考えた。
子供が出来て、私が誇れるもの、何か自慢出来るもの、そういうものが一つでもほしいと思ったからから。
私の中で唯一褒められたのが、文章力があるということ。
話を文章でまとめることは他の人よりは得意かもしれない。
その代わり、他のことは何をやっても上手くいかない。
だから、私はそれを伸ばすことにした。
とはいえ、ブランクもあるし、そもそも長編はまだ書けるほどの実力はない。
それに、私は元々ショートショートストーリーや、短編が好きだ。
短い文章の中で伝えたいことを上手く伝えるほうが楽しい。
今はショートショートや短編のコンテストをひたすら探して、お題や、〆切、文字数など最低限の情報をまとめた。
それを書いていこうと思っている。
すぐに結果は出ないとは思う。
でも、やれるだけのことはやりたい。
魔法
この世界には魔法なんて便利はものはない。
ただ、魔法みたいなものなら沢山ある。
例えば、愛しい君が嬉しそうに笑ったとき。
落ち込んだときに誰かがそっと寄り添ってくれたとき。
この世界にある魔法は、手に入れるのは簡単そうで難しい。
自分自身もこの魔法を使えるようになりたいし、そうすることで、誰かがまた私に魔法を掛けてくれるはずだ。