北野レイ

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空に溶ける


暑い日差しに手をかざしてみたら、手がみるみるうちに空に溶けてしまった。

「えっ……」

わけもわからず混乱して、手をグーパーするも、その手はどんどん透けていき、指先は見えなくなり、掌も見えなくなってきた。

「どういうことなの……」

怖くなり、一人で呟いていると同じ高校の制服を着た女の子がやってきた。

「あなたは悪霊になりそうだった幽霊よ。今、浄化してやっと自我が戻ってきたの」

女の子は淡々と話している。
手には謎の黒い杖のようなものを持っていた。
あれが浄化するためのアイテムなのだろうか。

「ゆう、れい……?私、死んでるの?」

私は目を見開き、途中まで消えかかった体を見ながら質問した。

「残念ながら、そのようね」

言葉とは裏腹にそこまで残念そうではない。
それが無性に腹が立つ。

「そんな……!まだ私やりたいこと沢山あったのに……!!」

私は彼女に掴みかかりたい気分だったけど、掴む手がないため、声を荒らげることしか出来なかった。

「そう、それなら尚更、ここには留まらずに天界に行きなさい。そしたら、いつかまたこの世界に戻ってこれるはずだから」

彼女は淡々と喋っていたように見えたが、その目は憂いを帯びている。

「……もう、この体は生き返らないのね」

彼女の表情からもうここにいても仕方がないのだと何となく諦めがついた。

「なら、早くその天界とやらに送って!」

私は叫んだ。

「もちろん」

彼女は黒い杖のようなものを私に向かって縦に上へと振り上げる。

すると、急に強い風が舞い込み、竜巻のような風に飲み込まれ、空へと飛ばされた。


私は空へとは消えるまでの間に色々考えた。
これが走馬灯というやつかな。

好きな人と付き合えたばかりだし、スタバの新作を友達と行く予定だったのにまだ行けてないし、週末は初彼氏と初デートで観たかった映画を鑑賞予定だった。
将来は看護師になりたかった。
元々身体の弱かった私は小学生時代は入退院を繰り返すほどで、母には沢山心配掛けた。
その分、将来恩返しがしたかったのに……。

それもこれも全部吹き飛んだ。

でも、来世があるなら、私は今度こそ天珠を全うする!と決めた。
で、出来ればどういうきっかけでも、関係でもいいからまた母に会いたい。
母の助けになるなら何でもしたい。


そうして、私は天界へ行った。


彼女は来世は友達になれたらいいねと呟いた。

5/20/2025, 1:34:23 PM