小説
おばみつ※転生if
ぽとりと目の前でハンカチが落ちる。持ち主である男性は、落としたことに全く気づいていない様子だ。
どうしよう、声をかけるべきかな。
でも恥ずかしい。…ああでもでも!
もしかしたら大切な物かもしれないわ!
そうよ、甘露寺蜜璃!大きな勇気じゃなくてもいいの!小さな勇気を出すのよ!
そう心に思い、ハンカチを拾い上げ声を上げる。
「あ、あの!お兄さん!」
声に気づいたらしい男性がこちらを振り向く。
マスク姿の男性は驚いたように目を見開いていた。
「これ、落としましたよ!」
これが私、甘露寺蜜璃と彼、伊黒小芭内さんとの出会いだった。
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おばみつ
甘露寺を喜ばせたい。茶を啜りながらふと思う。
首元の鏑丸と戯れながら、どうしたものかとウンウン唸る。
生まれてこの方二十一年。女子を喜ばせたいと思ったことが無いせいで何も思いつかない。
置物より普段使える物のほうが良いだろう。いや、それとも食べ物のほうが良いだろうか。
羽織はどうか。いいや駄目だ。あれは杏寿郎の贈物だったはず。
簪はどうか。いいや駄目だ。恋仲でもないのに贈れない。
着物はどうか。…さすがに重すぎるか。
…やはり食べ物のほうが良さそうだ。
そうと決まればあとは下調べのみ。
「…!もうこんな時間だ。さて、行こうか鏑丸」
友の名を呼び、俺は鬼を狩りに夜の町へと向かった。
「わぁ!」
数日後の定食屋にて。
俺と甘露寺の目の前には丼物、握り飯、漬物、甘味等等沢山の食べ物が並んでいた。
隣を見ると、甘露寺が目をキラキラ輝かせながら食卓を眺めている。
「これ全部食べていいの?」
鈴を転がすような声で尋ねられ、俺は満足気に頷く。
「全部君のだ。足りなかったら言ってくれ。俺が頼む」
弾けんばかりの笑顔を返され、食べ物で正解だったなと自らの判断に賞賛を送ったのだった。
(一日前のお題だけどせっかく書いたから!)
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迅嵐
「…っ!」
嫌な未来を視てしまった。確率としてはかなり低く、手順を踏めば確実に回避出来る小さな未来。
大丈夫。おれが間違えなければ実現しない。大丈夫、大丈夫だ。
そう何度も言い聞かせても、おれの心臓が静まることはなかった。
時刻は夜11時。明日は予定があるから早く寝よう。電気を消し、布団を頭まですっぽりと被り闇に染まった天井を見つめる。瞳はとじれなかった。
瞳をとじてしまったら、また視えてしまう気がして。
おれそのまま眠ることなく朝を迎えた。
「迅、どうかしたか」
「えっ…いや、なんでも」
ぼんやりとしていたせいで、何も聞いていなかった。顔を上げると、心配そうな顔をした嵐山がこちらを見つめてくる。エメラルドに全てが見透かされているようで、おれはすぐに視線を外した。
「うーん…これは悪い未来を視たときの反応だな。そうだろう?」
「…なんで分かるんだよ」
床を見つめ、ヘラりと笑って軽く言ったが、内心ドキドキしている。やはり見透かされていた。こいつには敵わない。
「はは。でも、お前なら回避できるんだろう?」
視線を戻すと、いつの間にか一歩踏み出していた嵐山の瞳がおれを捉える。その瞳の中で、おれは静かに揺らめいていた。
「………できる」
「よし」
堂々とした顔で嵐山が言い切るもので、おれは毒気を抜かれたようにその場にしゃがみこむ。盲信しすぎだと思った。こいつはおれの事をあまりにも疑わなすぎる。信じられているおれが時折心配になるほどに。
けれど、その思いに応えねばとも思った。
「ど、どうした!?何処か具合が悪いのか!?あっ、お前まさか…!換装解け!顔色見せろ!!!」
「あっはっは!」
完全に座り込んだおれは、必死な嵐山をそっちのけで笑った。
回避してみせる。おれなら出来る。
お前が信じてくれるなら、おれはまた立ち上がって歩いてみせるよ。
「さんきゅ、嵐山」
立ち上がったおれの言葉に?を浮かべた嵐山を見て、おれはもう一度大きく笑うのだった。
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千ゲン
「千空ちゃんまだ寝ないの?」
寝ぼけ眼を擦りながら、ぼんやりと明かりのついている方へ顔を向ける。千空ちゃんは難しそうな顔をしていたけれど、俺の声を聞くといつもの顔に戻って視線を向けてきた。
「あ゛ー…もうちょいで終わる」
「…もしかして、寝ないんじゃなくて、寝れないの…?」
「……ちげーよ。今丁度良いとこなんだわ」
そう言うと、千空ちゃんはわしわしと雑に俺の頭を撫で回す。
きっと千空ちゃんは嘘をついている。俺に心配させない為のやさしい嘘。
長い間数を数えていた千空ちゃん。一度意識を手放してしまえばおしまいで、気を休めることが出来なかった約三千七百年間。石化から開放された直後は眠りにつくことが怖かったのだと言う。もしかしたら、今も意識を飛ばす眠りは恐怖の対象なのかもしれない。
「千空ちゃん一緒に寝ようよ」
「…何言ってんだてめー」
「いいじゃんいいじゃん。ほら、おいでよ」
軽い布団を捲り手招きをすると、千空ちゃんは意外と素直に明かりを消しこちらに近づいてくる。こういう所は年相応で、とても可愛いと思う。
肩まで布団が被っている事を確認すると、俺は千空ちゃんの手を握った。
「……」
「大丈夫、明日はくるよ」
「…お見通しって訳か」
ふ、と笑った雰囲気を暗闇の中から感じ、俺もつられて笑う。
「こう見えてメンタリストだからね。明日の朝ごはん何かなー」
「明日もドイヒー作業が待ってんぞ」
「えええ!」
小さな窓から入る星の光が俺たちを薄く照らす。
明日の話をしながら、しばらく俺たちは手を繋いでいた。
ミニ小説
おばみつ
どんなものを贈ろうかしら。
料理の得意なあなたには調理器具がいいのかも。
でもでも蛇さんが好きだから置物とか?
ああどうしよう!
あなたへの贈り物を考えるだけで、こんなにも胸が踊るわ!
ふふふ。
じっとしていても仕方がないわ!
伊黒さんが好きそうな物を見に行こう!