小説
千ゲン
「千空ちゃんまだ寝ないの?」
寝ぼけ眼を擦りながら、ぼんやりと明かりのついている方へ顔を向ける。千空ちゃんは難しそうな顔をしていたけれど、俺の声を聞くといつもの顔に戻って視線を向けてきた。
「あ゛ー…もうちょいで終わる」
「…もしかして、寝ないんじゃなくて、寝れないの…?」
「……ちげーよ。今丁度良いとこなんだわ」
そう言うと、千空ちゃんはわしわしと雑に俺の頭を撫で回す。
きっと千空ちゃんは嘘をついている。俺に心配させない為のやさしい嘘。
長い間数を数えていた千空ちゃん。一度意識を手放してしまえばおしまいで、気を休めることが出来なかった約三千七百年間。石化から開放された直後は眠りにつくことが怖かったのだと言う。もしかしたら、今も意識を飛ばす眠りは恐怖の対象なのかもしれない。
「千空ちゃん一緒に寝ようよ」
「…何言ってんだてめー」
「いいじゃんいいじゃん。ほら、おいでよ」
軽い布団を捲り手招きをすると、千空ちゃんは意外と素直に明かりを消しこちらに近づいてくる。こういう所は年相応で、とても可愛いと思う。
肩まで布団が被っている事を確認すると、俺は千空ちゃんの手を握った。
「……」
「大丈夫、明日はくるよ」
「…お見通しって訳か」
ふ、と笑った雰囲気を暗闇の中から感じ、俺もつられて笑う。
「こう見えてメンタリストだからね。明日の朝ごはん何かなー」
「明日もドイヒー作業が待ってんぞ」
「えええ!」
小さな窓から入る星の光が俺たちを薄く照らす。
明日の話をしながら、しばらく俺たちは手を繋いでいた。
1/24/2025, 12:27:18 PM