小説
おばみつ
甘露寺を喜ばせたい。茶を啜りながらふと思う。
首元の鏑丸と戯れながら、どうしたものかとウンウン唸る。
生まれてこの方二十一年。女子を喜ばせたいと思ったことが無いせいで何も思いつかない。
置物より普段使える物のほうが良いだろう。いや、それとも食べ物のほうが良いだろうか。
羽織はどうか。いいや駄目だ。あれは杏寿郎の贈物だったはず。
簪はどうか。いいや駄目だ。恋仲でもないのに贈れない。
着物はどうか。…さすがに重すぎるか。
…やはり食べ物のほうが良さそうだ。
そうと決まればあとは下調べのみ。
「…!もうこんな時間だ。さて、行こうか鏑丸」
友の名を呼び、俺は鬼を狩りに夜の町へと向かった。
「わぁ!」
数日後の定食屋にて。
俺と甘露寺の目の前には丼物、握り飯、漬物、甘味等等沢山の食べ物が並んでいた。
隣を見ると、甘露寺が目をキラキラ輝かせながら食卓を眺めている。
「これ全部食べていいの?」
鈴を転がすような声で尋ねられ、俺は満足気に頷く。
「全部君のだ。足りなかったら言ってくれ。俺が頼む」
弾けんばかりの笑顔を返され、食べ物で正解だったなと自らの判断に賞賛を送ったのだった。
1/27/2025, 3:20:09 AM