(一日前のお題だけどせっかく書いたから!)
小説
迅嵐
「…っ!」
嫌な未来を視てしまった。確率としてはかなり低く、手順を踏めば確実に回避出来る小さな未来。
大丈夫。おれが間違えなければ実現しない。大丈夫、大丈夫だ。
そう何度も言い聞かせても、おれの心臓が静まることはなかった。
時刻は夜11時。明日は予定があるから早く寝よう。電気を消し、布団を頭まですっぽりと被り闇に染まった天井を見つめる。瞳はとじれなかった。
瞳をとじてしまったら、また視えてしまう気がして。
おれそのまま眠ることなく朝を迎えた。
「迅、どうかしたか」
「えっ…いや、なんでも」
ぼんやりとしていたせいで、何も聞いていなかった。顔を上げると、心配そうな顔をした嵐山がこちらを見つめてくる。エメラルドに全てが見透かされているようで、おれはすぐに視線を外した。
「うーん…これは悪い未来を視たときの反応だな。そうだろう?」
「…なんで分かるんだよ」
床を見つめ、ヘラりと笑って軽く言ったが、内心ドキドキしている。やはり見透かされていた。こいつには敵わない。
「はは。でも、お前なら回避できるんだろう?」
視線を戻すと、いつの間にか一歩踏み出していた嵐山の瞳がおれを捉える。その瞳の中で、おれは静かに揺らめいていた。
「………できる」
「よし」
堂々とした顔で嵐山が言い切るもので、おれは毒気を抜かれたようにその場にしゃがみこむ。盲信しすぎだと思った。こいつはおれの事をあまりにも疑わなすぎる。信じられているおれが時折心配になるほどに。
けれど、その思いに応えねばとも思った。
「ど、どうした!?何処か具合が悪いのか!?あっ、お前まさか…!換装解け!顔色見せろ!!!」
「あっはっは!」
完全に座り込んだおれは、必死な嵐山をそっちのけで笑った。
回避してみせる。おれなら出来る。
お前が信じてくれるなら、おれはまた立ち上がって歩いてみせるよ。
「さんきゅ、嵐山」
立ち上がったおれの言葉に?を浮かべた嵐山を見て、おれはもう一度大きく笑うのだった。
1/26/2025, 8:23:43 AM