アイツを生かす「魔法」を、死ぬ気で探す。
【魔法】
あの日、アイツと寄り道した場所で見た虹。
遠くの雲の切れ間から差し込む光と雨粒が、はっきりと作り出した虹。
灰色の空を彩るあの七色のアーチは、まさしく「絶景」そのものだった。
しかもあの時、回りには誰もいなかった。
つまり、二人きりの「絶景」の記憶。
その事実が、余計に虹を綺麗に見せた。
…まあ、自分は、珍しく目を輝かせているアイツの横顔に釘付けで、虹のほうはあんまりじっくりとは見てなかったんだけども。
【君と見た虹】
空を、飛んでみたいと思った。
だから、空を翔べるアイツに頼んでみた。
アイツは嫌そうな顔をしながらも、渋々了解してくれた。
そして今夜。
二人、手を繋いで、夜の世界へ飛び込んだ。
「すげーオレ空飛んでる!!」
「俺の能力でな。感謝しろよ」
「もうめっちゃしてる!あ、あそこキレー」
「ホントだな」
駄弁りながら、風を切って進む。
耳元は風の音で塞がれているから、いつも通り喋るにも、声を張り上げる必要がある。
そうやって大声を出すのも、飛ぶことの爽快感を大きくしていた。
「誰か連れて飛んだのは初めてだったが、意外とうまくいくもんだな」
「ま、オレだからな!体の使い方分かってっし」
「初めてなのに?」
「へへん、だからこーやって、自由じざ………っっっ!!!!」
調子にのって、体を動かそうとしたとき。
一瞬、手が離れた。
つかみ直そうとして二人同時に手を伸ばすが、その手は同時に空を切った。
力の伝達回路が切れて、重たくなった体が落ちていく。
息がうまく吸えない。服が風に遊ばれてバサバサうるさい。
そうして意識が薄れ始めた時。
急降下してきたアイツに抱き止められる。
オレも必死でしがみついた。
空中で静止し、二人抱き合う。
お互いの荒い呼吸だけが聞こえていた。
「バッ……カ野郎…だからやりたくなかったんだよこんなこと」
「…ごめん」
「…怖いか?」
「ちょっと」
「もうやめるか?」
「…いや、まだ飛びたい。それに、お前はまた助けてくれるだろ?」
「はあ、仕方ねえな」
「ハハッ、冷てー」
「……じゃあ、行くか」
「おう」
そっと体を離して、手を繋ぎなおす。
今度はもう離れないように。
そして、また駄弁りながら、風にのって飛び始めた。
遠く、遠くの空へ。
【夜空を駆ける】
雑踏を、訳もなく歩く。
何十人、何百人とすれ違った中の一人。
見間違いだと思った。
けれどあれは。
息をのみ、振り向く。
騒音の中、同じようにこちらを振り向いていたその顔は。
死んだはずの相棒そっくりだった。
自分の中の、時間が止まる。
また顔を見られた喜びと、自分が見送ったはずの人間が生きてこの地に立っている戸惑いだけがそこにあった。
いや、でも。
「アイツ」は、自分が知っているのとは違う。
明らかに足りないものがあった。
きっと、他人の空似だろう。
にしても、あんなにそっくりなヤツがいるとは。
そう言い聞かせて、視線をそらしかけた。
その瞬間、「アイツ」の唇が動いた。
音は搔き消されて聞こえなかった。
けれど。あの動きは。間違いなく。
自分の名前を呼んでいた。
誰だ。誰?誰なんだよ?
お前は、一体、
【あなたは誰】
_______
A.並行世界から来た相棒
「そういえば、最近『好きな人』に書いた手紙のこと聞かんけど、できたん?」
「ああ~あれね、出来悪すぎて燃やしちゃった」
「また?もう4回目じゃん。いい加減直接言いなよ、誰かは知らんけど」
「えぇ~それはちょっと、恥ずかしいじゃん?」
「…ホントに分からんヤツだね、お前」
「そうやって呆れててもなんだかんだ付き合ってくれるから大好き」
「さいですか」
「…」
「……」
「………あは」
「うん?」
「…意外と、直接言えるもんだね、これ」
「………………え」
【手紙の行方】