自分と相棒、二人しかいない電車の中。
心地よい音をたてながら揺れる車内。
流れる景色を見ながら、ぽつりと呟いた。
「このまんま、遠くに行けたらなあ」
「珍しいな、そんなこと言い出すなんて」
「なんとなく思ってさ」
「行きたいのか?遠くに」
「そうできたらいいな~とは思ってる。…このまま、誰も知らないところまで行ってさ、そこでお前と二人で暮らす」
ぽつり、ぽつり。
小雨のようなテンポで会話が続く。
「俺もついてく前提かよ」
「お前いなきゃ意味ねえよ」
「なんで」
「…もう嫌なんだ、お前が一人で遠くに行くの。どうせ遠くに行くなら、オレと一緒に行ってほしい。ずっと一緒がいい」
「………」
「お前一人だけ、いなくなんなよ。な?」
「…」
言葉がなくなった。
ガタンゴトン、心地よい音だけが響く。
互いに目を合わせることもなく、ただ景色を眺めていた。
景色から目を離さないまま、相棒が肩を寄せてくる。
景色から目を離さないまま、それを受け入れた。
「俺のこと好きすぎだろ」
「うん、世界一」
【遠くへ行きたい】
アイツからしたら、うまく隠れているつもりなんだろう。
しかしあのカーテンは傍から見ればあまりに不自然だし、尻尾も丸見えだ。
ガキじゃねえんだから、と思いながら、気配を消して目の前のいたずらっ子にゆっくりと近づき、縮こまっている体をカーテンごと抱き締めた。
【カーテン】
______
捕獲されたときの第一声は「カーテンに喰われた!!」だったそうな。
あまりに純粋で深い、恋情。
【青く深く】
____
若いねえ。
空との境界がくっきりと表れた雲。
じりじりと肌を焼く日差し。
減り始めたウグイスの鳴き声。
蚊取り線香の煙のにおいを身に纏った自分の足に構わず吸い付いてくる蚊たち。
汗ふきシートのにおいが充満する教室。
エアコンの風が直接当たる席は都合のいい時以外はハズレ扱い。
「暑い」が挨拶代わり。
そのくせ距離感は変わらない。
夏ですね。
【夏の気配】
知らない世界
要らない正解
【まだ見ぬ世界へ!】
_____
ラップ調。