「出来たぞ!遂に完成じゃ!」
博士はそう言って、バンザイした。
博士の前にはピカピカと輝く一台の人型ロボットがある。
「これは私の生涯で最高の発明だ。こいつがあれば遂に平和な世界をつくることができる。」
完成したのは、自律型治安維持ロボット
「名付けて、『愛と平和』じゃな」
「婆さん、これでくだらない人々の争いはなくなるぞ。見ていてくれ。」
博士は妻の写真に向かって言った。
「お前が、デモに巻き込まれて死んでしまってから、ずっと考えていた。どうにかして戦争や暴動をなくせないかと…。」
博士は妻の写真を手に取り、椅子に腰掛ける。写真を撫でながら語りかける。
「人々の気持ちが変わればいいと思っていた。だが、それは難しいことのようだ。食糧やエネルギーの奪い合いで、今じゃ毎日どこかで戦争しておる。」
窓の外では警報音が鳴り響いてる。
「みんながみんな、自分は悪くないと思い込んでおるんじゃ…。だから仲裁に入る存在が必要じゃ。かつて婆さんが、争いは辞めようと呼びかけたように…。」
「じゃが、人は弱い。銃弾1発で命を落としてしまう。だからワシはこいつを作った。」
博士はロボットの前に近づいていく。
「すごいぞ、こいつは。暴動があれば時速200kmで駆けつける。
お前のように、仲裁に入って攻撃されてしまっても、超合金のボディは弾丸も跳ね返す。そして腕には超高性能の荷電粒子砲をつけた。たとえ相手がどんな抵抗をしても、一瞬で終わりだ。」
博士は天を仰ぐ。
「醜く争う人間が全ていなくなれば、愛と平和に満ちた世界になる。婆さん待っていてくれ。」
そう言うと、博士はロボットの起動スイッチを押した。
窓の外では爆撃音が鳴っている。
遠くの街へ行ってしまった。
みんなみんな。
残っているのはわたしだけ。
わたしだけ、ここから前に進めない。
わたしだけ、止まったままなの。
さよなら、どうか元気で。
たまにでいいから思い出してね。
ようやく仕事を終え、疲れきって家に帰る。
一人暮らしの狭い1K。出迎えてくれる人なんていない、真っ暗な部屋。
食事とか、シャワーとか、しなければいけないことはある。
ただどうにも身体を動かすのが億劫で、ベッドにもたれかかってぼんやりとテレビを眺めていた。
疲れたなあ。
いつの間にか画面には昔話題になったドラマの名場面が流れている。
同情するならカネをくれ
あまりにも有名な言葉だ。
同情なんて何の意味もない。
そんなものより現実的な助けになるお金をくれ、という意味なのだろう。
この言葉が有名なのは、それだけこの言葉に共感した人も多かったからだろうか。
確かに、上辺だけの励ましの言葉じゃ何の助けにもならない。お金は形として生活の足しになるし、何か物に変えることができる。
でも、と疲れ切って動かない頭で思う。
たとえ同情でも、優しい言葉をかけてくれる人が側にいるのは羨ましい。
仕事で言われたトゲのある言葉が頭の中で反駁される。
残業して、他に誰も残っていない真っ暗な職場を思い出す。
同情でもいいから情をください。
だれか私に優しくしてください。
あの子は彼のお気に入り。
みんなが噂してる。
ほら、見て。また2人でコソコソ話してる。
お似合いね。なんていう声が聞こえる。
2人っきりになりたいのね、なんて。
だけど本当にそうかしら。
彼があの子に顔を寄せる、身体にその手が触れる、
その度にあの子の顔が一瞬こわばるの。
あの子は彼のお気に入り。
でもあの子にとって彼は何なのかしら。
「お似合い」なんて無責任に貼られたレッテルを、あの子はどう思っているのかしら。
私の考えも、所詮勝手な想像にすぎないのだけれど。
誰からも嫌われる男がいた。
お金にがめつく、自分が儲けるためなら何でもする。
他人と関わることが嫌いで無愛想。
人から後ろ指を刺されようがお構いなし。
彼を見て人は言った。
「人の心がない」
「誰にも愛されない人間だ」
「きっとああいう奴は孤独に死んでいくさ」
そしてある日、男は死んだ。
男の葬式が開かれ、そこには彼の妻とまだ幼い娘がいた。
妻は涙ながらに言った。
「誰よりも愛のある人でした。」
男は数年前から病に犯されていた。
男は病と闘ったが、ある時自分の命が長くないことを悟った。
それから男は残される妻と娘のために、がむしゃらに働いた。自分がいなくなった後、妻と娘が不自由な生活を送ることがないようにと。
そして新しい人間関係を築くことを辞めた。自分が死んだ時、心を痛める人が少ないようにと。
そうして男は人生を終えた。
男は誰よりも家族を愛し、人を愛していた。