「夢を見たんだよね。」
彼が僕の方を見ながら呟いた。
「へぇ…どんな夢…?」
放課後の教室。僕ら以外に残る生徒はいない。
夏の午後の気怠い空気の中、帰るのがなんとなく面倒で、2人でポツポツと話していた。
夢の内容に大して興味もなかったが、話しの続きを促す。別に彼の話しを遮って話したいこともない。
彼は頬杖をついたまま、僕を見つめ口を開く。
「君が、」
「僕を殺す夢。」
「この窓から僕のことを突き落とすんだ。」
彼はうっすらと笑みを浮かべながら僕を見ていた。
開いた窓から風が吹き込み、夏の生温い空気が顔に当たる。カーテンが風に膨らみバタバタと音を立てている。
「縁起でもない夢だな。」
僕は顔をしかめそう返す。
彼はまだ笑みを浮かべたまま僕を見ている。
「そうだろ。だが夢は人に話すと実現しないというだろう。だから言ってみたんだ。」
話したことで満足したのか、彼は
帰ろうぜ、と鞄を持って立ち上がり、そのまま教室を出て行こうと歩きだす。
僕も同じように鞄を持ち立ち上がる。そして彼の背中について歩きながら考える。
どうして気づかれた?
もしもタイムマシーンがあったら、
あのときのあなたに会いに行けるのかしら。
もしもタイムマシーンがあったら、
わたしと出合う前のあなたに会えるのかしら。
もしもタイムマシーンがあったら、
あなたに言った酷い言葉も取り消せるのかしら。
だけどきっと、
タイムマシーンがあったとしても、
あなたの心の内がわかるわけじゃない。
タイムマシーンがあったとしても、
わたしの気持ちが伝わるのかはわからない。
だからきっと、
タイムマシーンなんてなくてもいいの。
今すぐ走ってあなたのところへ行くわ。
真っ暗真っ暗なんにも見えないこの世界。
わたしあなたの顔もよく知らない。
でも何にも問題ない。
姿や形なんて些細なことでしょう。
ここにあなたがいて私がいる。
ときおり触れるあなたの温度。それだけで充分なのよ。