「約束」
世の中の約束の内、一体どれだけが守られているのだろうか?
約束を破った、破られた、反故にされた。
よく聞く話で、決して珍しい訳では無い。
そう考えると、貴方と私の約束も、守られなくても仕方がないのかもしれない。
そうとでも考えないと、やり切れない。
この気持ちの、持って行き場所が、ない。
そうやって、あの日の約束にいつまでも縋っている私を、自分自身で納得させて。
心の何処かで「誤魔化しだ!!」そう思いながら、でも、そう思い込むしか私には出来ないから。
「ひらり」
ひらりひらりと雪が舞い落ちる。
髪に、肩に、指に、地面に。
落ちた瞬間に溶けてしまう。
儚い、一瞬だけの美しさ。
貴方と私との関係もそうだった。
儚い、短い煌めき。
それでも。
雪や花火が一瞬でも美しい様に。
私と貴方も、一瞬だったけど、お互いに精一杯だった。
雪や花火の様に、その時に出来る一生懸命で輝いていた。
今はもう、遠い昔の話だけど。
でも、精一杯生きた、愛したあの日を、私を、貴方を。
私は一生忘れない。
「誰かしら?」
ここ数日、毎日帰り道に誰かの気配を感じる。
振り返っても誰も居ないんだけど、何だか誰かに見られている気がする。
早い時間ならいいけど、少し遅い時間になると、怖いし不安だし、つい駆け出してしまう。
そして、走り出すとその気配はなくなる。
誰かいるの?
もし居るとしてら、誰なの?
数日もそんな不安を抱えながら過ごしていると、もうそんな姿の見えない者に驚かされるのが嫌になって。
意を決して、帰り道のいつも気配を感じる辺りに、帰宅時間前から張り込む事にした。
もし誰かが居るのなら、私が帰る時間より早くからこの辺に居るのだらうから、誰か見届けてやろう、と思った。
で、その辺りを見渡せるカフェの2階から、そっとその辺りを見ていた。
すると。
私以外にも気配を感じている人が居るのか、時々振り返ってキョロキョロしている人が居る。
でも、その人以外に人影は見えない。
もしかして、私はあまり信じてないし、怖いけど、この世の者じゃない?とかも考えたりして、余計に怖くなってきた。
それで、いつもの帰宅時間になっても店を出られなかった。
……そして、とうとう発見した!!
可愛らしい親猫が、人に見られない様に、こっそりと子猫を咥えて移動してた。
人に見られると危害を加えられるかも、との不安で、人に見つからない様に、安全な我が家を探して何回か引っ越しもしてたんだろうな。
だから、何回も気配を感じたし、見てると子猫は4匹いるから、毎回4回は移動が必要。
私はそのまま暫く親子の引っ越しを眺めて。
それからが大変だった。
人馴れしてない子達を、怯えさせないように、でもご飯は食べてくれるように。
時間をかけて、信頼関係を築いて。
近所の目もあるし、保健所とかに捕獲される前に何とかしないと。
……そして。
やっと今は無事家の子達になりました。
あの日、君達に出会えて良かったよ。
「芽吹きのとき」
雪解けの時期が来て、春が来る。
花も、樹も、待ちに待った季節が来る。
新芽も、花の蕾も、全てが嬉しそう。
冬の間は、枯れた様に見えてた。
でも、それは枯れたのではなく、次の為に必要な時間で。
その時間があるからこそ、次に繋がる。
それは、人も一緒だと思う。
もし今が辛い時期でも、この先にきっと良い事があるから。
いつか来る芽吹きの時を待ちながら、今を過ごそう。
立ち止まるのは悪い事じゃないよ?
次の為に英気を養う為の時間だから。
時には立ち止まる時間も必要だから。
「あの日の温もり」
寒い冬の日。
向かい風の中を、ただ一人歩く。
冷たい北風が、頬を刺す。
冷たい、とかを通り越して、もう痛い位。
去年の今頃は、貴方と2人だった。
冷たい風は、貴方がさりげなく私に当たらない様にしてくれてたから、私は寒くなかった。
でも貴方は、その分寒くて、いつも鼻の頭を少し赤くしてたよね。
寒いね、って言いながら、当り前の様に手を繋いだり、抱き合ったり。
そうやって、2人で温め合ってきたよね。
その温もりは、あの頃の私にとっては当り前で、永遠に続くと思っていた。
ある日突然、断ち切られるなんて、想像もしていなかった。
もう、貴方には逢えない。
貴方の声を聞く事も、姿を見る事も、出来ない。
貴方に触れる事も出来ず、あの日の温もりを感じる事も出来ない。
離れていても、何処かで貴方が生きてさえいてくれたなら、それで良かったのに。
それさえ諦めなければならず。
ただ一人、寒さを、痛さを、悲しみを、空虚さを、噛みしめる。
もう一度あの日を、と願いながら……