「キンモクセイ」
金木犀の香りが街に漂う頃になると、貴方の事を思い出す。
貴方と歩いた道。
笑い合った街角。
2人で頬を寄せて嗅いだ金木犀の木。
バカみたいに些細な事で笑って、はしゃいで。
毎日がただただ幸せだった。
あの木も今はもうなくなって、街並みもあの頃とはすっかり変わってしまった。
私と貴方の関係も終わって、今はもう貴方がどうしてるのか、生きているのかもわからない。
でも、毎年何処からか金木犀の香りが漂う季節になると、必ず貴方の事を思い出す。
打算も妥協もなく、ただ純粋に貴方に恋をしていた自分を思い出す。
そして、出来るならもう一度あの頃に、と願う自分を見つけてしまう。
叶わない願いと分かっていても、もう一度あそこからやり直せたら、と夢想する自分を見つけてしまう。
それは、甘酸っぱくて、切なくて。
でも、これ以上ない位輝いていた私の、大切な想い。
きっと、一生忘れる事のない、大切な想いだから。
「行かないでと、願ったのに」
なのに、貴方は行ってしまった。
もう、私の声は貴方には届かない。
貴方の声も、2度と聞くことは出来ない。
どれだけ腕を伸ばしても、指先すら貴方に触れる事は出来ない。
どれだけ願っても、もう貴方に逢う事は出来ない。
何度も願ったのに。
「行かないで」「逝かないで」「神様、私からこの人を取り上げないで!!」
でも、その願いは神様には聞き入れられずに。
そして、今日も又貴方の居ない1日が始まる……
「秘密の標本」
秘密の標本ではないけれど、初めて葉脈標本を見た時に、そのキレイさに感動して、それを作りたいが為に化学(科学?)部に入った。
そして、ほぼ幽霊部員だったけど、葉脈標本を作ると聞いて、その日は部活に行って、葉脈標本を作った。
沢山出来ると、最初見た時の感動は薄れて、そんなにキレイとか思わないかな?とも思ったけど、出来上がった葉脈標本は、やっぱり感動的な位にキレイだと思った。
あの時に作った葉脈標本は今でも持っている。
秘密でも何でないけど、懐かしい、思い出。
「凍える朝」
いつまでこの暑さが続くんだろう?と思っていたら、少し過ごし易くなった。
そして、そう思った途端に、あっと言う間に寒くなった。
日本には四季がある筈なのに、秋は一体何処に行った?
そう愚痴りつつ、いつの間にか冬を迎えた。
外には今年初めての雪がチラついている。
もう、朝ベッドを出たくない……
そう思いつつ、何とかサボりたがる身体をベッドから引き剥がす。
寒いよぅ、凍えるよぅ。
朝のニュースを見ながら、何とか身支度をする。
ニュースでは、近所で起きた殺人事件の報道をしている。
怖い……心理的不安が更に室温を何度か下げた気がする。
本当に怖いよ。
上手く隠したと思っていたのに。
バレないと思ってたのに。
何で見つかったんだろう?
恐怖が深々と押し寄せ、私の心を凍らせる。
心も身体も凍えた私は、この先一体どうすればいいんだろう?
「光と影」
光のある所には、必ず影が出来る。
喜び溢れる笑顔の傍らに、悲しみに暮れる涙がある。
でも、逆に言えば。
影のある所には、必ず光がある。
悲しみの裏には笑顔がある。
影から見える位置に、必ず光がある。
光のない影はないのだから、もし今影の中に居ても、いつかは光を掴めるから。
だから、嘆くだけの日々はやめて、光に向かって歩き出そう。