「カーテン」
side.a
貴方の部屋のカーテンが揺れる。
貴方が帰って来てるんだね。
貴方はルーズだから、カーテンをキチンと閉めないで、隙間から貴方の動きが解る。
今日は彼女も一緒なんだね?
私がいるのに、いつになったら貴方は私に気づくの?
こんなに長い間貴方だけを見つめているのに。
貴方もいつかは過ちに気付くと思って待っていたけど、もうそろそろ待てなくなってきたよ?
どうすればいいかな?
どうしようかな?
大丈夫、怖くないよ?
私、彼女よりも絶対に貴方を大切にするよ?
だから、ほら、そろそろ気づいてよ。
でなきゃ、そろそろ実力行使しなきゃならなくなるよ?
そうなる前に、何とかしてよね?
私、流石に犯罪者にはなりたくないから。
side.b
ずっと前から、いつも誰かの視線を感じる。
仕事をしていても、何故か家に帰ってからでも。
彼女も同じ事を言っていた。
俺は自分の身を守れるけど、彼女の事が心配だ。
でも、お互いに恨まれる理由もないし、誰なのかの検討もつかない。
兎に角、彼女に危険が及ばない様に、気をつけよう。
なるべく一緒に過ごして、俺が守ろう。
俺にはそれ位しか出来ないから。
side.c
最近、誰かの視線を感じる。
ねっとりとした、悪意を含んでいる様な、嫌な視線。
彼は心当たりがないって言っている。
でも、彼には言ってないけど、実は私にはある。
彼は、無自覚にモテる。
端正な顔、優しい声、スタイル、経済力。
何処をとってもモテる要素しかない。
強いて駄目な所を上げるなら、鈍い所と少しだらしない所。
でも、それすらも完璧さで気後れする相手から見れば、丁度よい隙になって好ましい。
だから、きっと又そんな彼に魅了された何処かの女が、彼を狙っているんだと思う。
そして、私の事も排除しようとしている。
確かに彼は魅力的だから、その気持ちは解る。
だって、私もそうやって彼を手に入れたから。
勿論彼は知らないよ?
彼女と別れた後にただ普通に出逢って、ただ普通に恋に落ちたと思ってる。
でも実際は。
彼女に恐怖心を植え付けて貴方と別れさせて。
その後に、私が集めた情報から精査して、計算して、貴方とあくまでも偶然に出逢って、貴方の好みの女を演じて、手に入れた。
凄い努力が必要だったけど、貴方を手に入れる為なら、何でもなかったよ?
なのに、又あの頃の私みたいな女が現れた。
もう、何人目?
今まではさりげなく排除してきたけど、鈍い彼が気づいた後だとやり難い。
貴方にバレない様に、って、余計なミッションもプラスされたよ。
でも、何とかしなきゃ。
もう、この手は血に染まってるんだから、今更一人増えてもどうって事ないよね?
私と、あの女の勝負だね。
「青く深く」
海の中。
森の中。
心の中。
青く、深い所に真実がある。
深海には生物の真実が。
森の奥には植物の真実が。
そして、心の奥には私の真実が。
深海には、まだ見た事のない未知の生物が。
森の奥にも、まだ見た事のない未知の植物が。
そして、心の奥には、他人にはひた隠しにしている、私の心の中の醜い魔物が。
そして、その魔物が生み出した、数多の死体が、深海に、森の奥に散らばっている。
青く、深く、誰も知らない所で、ひっそりと。
「夏の気配」
衣替えがあって、梅雨が来て。
そして、貴方が少しずつ日焼けして行く。
日差しが眩しいのか、貴方が眩しいのかは解らないけど、目を細めて貴方を見つめてる。
夏が来たら、今年こそ、貴方を海にでも誘ってみようかな?
夏の気配を感じながら、毎年叶えられなかった夢を今夏の目標にして。
「まだ見ぬ世界へ!」
年を重ねるにつれて、初めての事が少なくなってきた。
子供の頃は、初めての事が殆どで。
見る物、聞く物、全てが目新しく、珍しく、刺激があった。
でも、段々と経験を重ね、知識を身につけるにつれ、感動する事も減って行き、「ふう〜ん」とか、「へぇ〜」位になっていった。
きっとそれは経験の多寡ではなく、自分の心持ちが変わったのだと思う。
好奇心とか、探究心とか、そんな大事な物を、経験と引き換えに支払ってしまったのだと思う。
でも、まだまだ世の中には見知らぬ世界がある。
それらを知る時に、うっすい感動だけだと勿体ない。
もっと貪欲に、もっと激しく。
新しい世界を楽しもう。味わい尽くそう。
同じ人生なら、知り尽くして、味わい尽くして、楽しみ尽くそう。
飛び出そう、まだ見ぬ世界へ!
味わおう、まだ見ぬ世界を!
「最後の声」
もし許されるなら。
貴方の最後の声は私が聞きたい。
それが愛の言葉でも、例え不満だったとしても。
貴方が最後に言いたかった事は、私が聞きたい。
貴方の全てを受け止めたいから。
そして、私の最後の声も貴方に聞いて欲しい。
貴方は私の声を聞こうとして、きっと私の口元に耳を近づけるだろう。
そして、あえて私は声を出さない。
貴方が一生懸命私の声を聞こうとしてくれる様に。
貴方の神経の全てが私に向く様に。
最後の最後まで、貴方には私を見ていて欲しい。
私の最後は、貴方に埋め尽くされたい。