「Sunrise」って言葉を使ったことがなくて、
文字通りのはずなのに思わず調べてしまった。
日本語にすると「日の出」。
同じ意味のはずなのに、何となく違うイメージがあるのは私だけだろうか。
私にとって日の出は、ちょっと嫌なイメージが多い。
冬の通勤電車で「なんでこんな朝早くから、満員電車に乗らないといけないのか」と昇りつつある太陽に照らされながら、心を無にして電車に揺られていた記憶が多いからだ。
けれど一度だけ、暖かい記憶がある。
とある海辺のホテルで、朝食会場が開く前にロビーで待っていた時のこと。
他にも待っていた何人かが、ロビー奥のテラスに出ていくのが見え、つられるように私も外に出た。
まだ肌寒い時分で、暖かいロビーから冷たい海辺の強風に晒される。
同じく外に出た人の中には、寒さを物ともせず煙草が優先、とばかりに端にあった喫煙スペースに向かう人もいた。
寒いのが苦手な私は上着をかき集めながら、
テラスに植えられた植込みや小さな椰子の木を避けて奥まで進んでみる。
開けた視界の先には、広い海と紫色の空の境目に
昇りつつある半円の太陽があった。
砂浜の方には椰子の木もあり、これぞまさに「Sunrise」と呼ぶに相応しい景色だった。
その空の色があまりも綺麗で、
寒風で冷えた身体に太陽の熱と共に
じんわりと胸に何かが染み込むような感覚を覚えた。
この後の朝食のことがなければ、もしかしたら涙を流していたかもしれない。
それくらい綺麗だった。
同時に電車の車窓からと、海辺ではこうも違うのかとも思った。
これが「日の出」と「Sunrise」のイメージの違いなのかもしれない。
「日の出とSunriseの違い」
⊕Sunrise
小さい頃、タンポポの綿毛が好きだった。
黄色い花を咲かせたあとにできる、ふわふわの綿毛。
そっと傍らにしゃがみ、蝋燭の火を吹き消すように、小さなシャボン玉を沢山作るときのようにふぅっ、と吹くとブワッと綿毛が飛ぶのが楽しかった。
吹いても中々飛ばない綿毛があると、意地になってずっと吹いていたり、寧ろ吹かずに軽く手で掴んでは宙に放ったり、タンポポの軸を持って左右に揺らしたこともあった。
何れにせよ綿毛は飛び、幼い頃はよく見ていた『空を飛びたい』という夢を叶えるのに綿毛を使うのもありだな、なんて考えたりもした。
そういえば、高校生位になってから久しくタンポポを見ていない気がする。
それくらいから、夢を見なくなったんだなと少し寂しくなった。
たまにはタンポポの綿毛探しも良いかもれない。
「夢見る綿毛」
⊕風に身をまかせ
日々過ごしていると、大小かかわらず『うっかり』というのはどこにでも転がっている。
地図の読み違いで道を間違え、迷子になったり
ほぼ一日かけて書いた論文や小説が、PCの不調でまっさらになったり
ゲームのセーブができていなかったり
特に『冒険の書が……』という言葉を聞くと頭を抱える人もいるだろう。
そういう時に、何に消失感を感じるだろう。
浪費した体力なのか。
自分が捻り出したアイディアなのか。
集めてきたアイテムや、苦労して手に入れたレア物か。
どんなことにせよ、『うっかり』には時間の消失が存在する。
因みに私はここ数日、「書いた内容を切り取って貼り付けたら貼り付けをミスって消える」という『文章版 消しゴムマジック』に心が折れかかっている。
いいか、コピペするときは切り取りじゃない。
コピーだ!
忘れるな、コピーだぞ!!!
泣いてないぞ!!!
「自戒」
⊕失われた時間
「私もついに、大人になるのね」
振り向き様に寂し気な表情を浮かべて笑む彼女は、
大人の姿をしていた。
――――――――――――――――
彼女は明日、この孤児院を卒業し
私の知らない男性と結婚する。
幼い頃から共に過ごしたここを出て、
私の知らない場所で今後を過ごすのだろう。
友人が見初められてから、私達の別れの日は決まっていた。
日毎、彼女は私をおいて大人になっていく。
昼間も大人の顔をした彼女が孤児院を出て、夕食後に帰ってきたのを知っている。
消灯後に彼女の部屋の戸を叩くと
扉は直ぐに開かれ、中に招き入れられた。
ベッド横にあるライトだけが頼りで、弱々しい灯りが部屋を照らしていた。
まだ化粧を施したままの彼女がデスクの椅子に座ると、デスクに置いていた贈り物らしき口紅をそっと引き出しにしまう。
「思ったより、いい人よ」
そう微笑む彼女に施された化粧は薄闇でもわかるほど
肌白く、鮮やかな紅が強調されたものだった。
彼女にはもっと淡い色の口紅が似合うのに。
そう思いながら、デスク横のベッドに腰掛けると彼女も私の隣に座り直した。
二人で黙って見つめ合う。
何分経ったか、見つめ合ううちに
彼女の口紅だけが薄暗い部屋に浮かんでいた。
この口紅さえ消えれば。
紅が憎くて、彼女の唇に指を這わす。
綺麗に縁取った口紅が、指を通った跡に残り
先程よりも紅の色が薄くなった。
彼女は目を伏せて私の指の動きに集中し、させるがままにしている。
唇から頬、首にかけて赤い筋ができた。
今度は彼女の方から両手を伸ばし、
私の頬を包むと自分の額に私の額を合わせた。
目線を上げると、直ぐ側に彼女の瞳が見える。
覚悟を決めた瞳が揺れる。
潤んだ瞳から、今すぐにでも雫が零れ落ちそうだ。
明日の朝になれば、この関係が人に知られることはない。
大人になれば、私達は永遠にこの手を取り合うことはできない。
それならば今夜だけはまだ、子供のままでいい。
「大人になれば私達は」
⊕子供のままで
待ちに待った日。
朝起きた時……いや、その前日から準備は始まっている。
前日の朝から美容院に行って、推しのカラーに染めて
午後にはネイルサロンで、推しの概念デザインでネイルしてもらう。
夜になれば明日の準備を済ます。
帆布のバッグを推しの缶バッジで埋め尽くす。
うん。痛バッグ、よし。
ペンラと応援うちわ、よし。
推しのブロマイドとアクスタ、よし。
チケット、よし。
グッズのための軍資金、よし
当日はグッズのために早めに家を出る。
鏡の前で身だしなみを整える。
メイク、よし
ヘアスタイル、よし。
推しの概念ファッション、よし。
さぁ、今日は待ちに待った推しのライブ。
ペンラと応援うちわを両手に惜しみのない
推しへの愛を叫びに行こう。
「推しのあなたに会いにゆく」
⊕愛を叫ぶ。