スナエ

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4/11/2023, 10:08:07 AM

 愛してると言わなくては、死んでしまう病に罹患した。
 でも、オレは、おまえを“愛してない”から。どうしても言えない。
 世界で一番好きだよ。世界で一番特別だよ。
 だけど、愛することが出来ないでいる。オレの恋は、いつまでも花をつけない。
 この恋は、祟りみたいなものなんだって、前に言っただろう?
 おまえは、それを受け入れたけど。本当に感謝してるけど。愛せないんだ。
 これは、オレの哲学の話。オレの定義では、オレはおまえを愛していない。
 何も言えなくて、ごめん。
 いきなり死んでしまうことを、ゆるさなくていい。

4/10/2023, 10:15:55 AM

 光があるところに影があり、花は咲いたら散るけれど。
「春っていいよな」とだけ、おまえに言うと、同意された。
 おまえは覚えてないかもしれないが、オレは、あの春を覚えている。高校生になったばかりの頃、クラスがおまえと一緒だった。
 またかよ。そう思った。中学の頃から、ずーっと同じなもんだから、話したことは、ほぼないのにフルネームを覚えてしまってたんだよな。
 嫌いだったよ、おまえのこと。善人だから。
 でも、おまえに恋をした。あれは、春だった。桜が美しく見えるようになったし、モンシロチョウが綺麗に見えたし、自分が独りだと気付いた。
 オレの世界に、“寂しさ”を持ち込んで来たおまえは、本当に最悪で。
 オレは、心の中の特別席におまえを座らせてしまったから、今でも隣を歩いている。
 桜並木が、鮮やかに彩られていた。

4/9/2023, 10:27:30 AM

 人間でいる資格を剥奪された。
 オレは、誰よりも自分のことが嫌いで仕方なかったから、そのせいで、人間不適合者として処罰されたのである。
 今のオレは、一匹の毒虫だ。小さな虫けら。オレには、お似合いの命の器。
 オレは体をくねらせ、おまえの足から這い上がり、肩に到達する。
 そして、おまえがオレの存在に気付いた。
「意外と元気そうだな」
 まあな。発声が出来ないので、心中で同意する。
 横目でオレを見ながら、おまえは歩き出した。
「落ちるなよ?」
 ま、善処するよ。
 帰宅して。肩から降ろすために、毒虫のオレに触れるおまえは、怖いもの知らずだな?
「愛してる」と、手のひらの上のオレに告げられた。
 オレが、世界で一番好きなおまえは、随分物好きで、シュミが悪い。でも、そのお陰で、こうして側にいられるんだから、嬉しいよ。

4/8/2023, 10:46:23 AM

 永遠の命を手に入れた。
 だから、それをおまえにも分けて、共に生きる。
 百年の時が過ぎ、オレたちの家族や友達や知り合いは、みんな死んでしまった。
 でも、オレは、おまえさえいればいい。この世で一番特別な、おまえさえ隣にいればいい。
 だが、おまえは違った。家族や友達や知り合いの死を、おまえは悼み、悲しむ。
 そりゃあ、オレだって悲しいけどさ。
「おまえには、オレがいるよ」と言ったが、おまえの表情は暗いままだ。
 永い時を、オレと過ごすおまえ。ある日、おまえは告げる。
「もう疲れた」と、一言。
 悪いけど、不死の捨て方なんて、オレは知らない。
 おまえは、両手で顔を覆い、膝から崩れた。
 永遠に囚われたおまえは、そのことを嘆く。
 それでもオレは、おまえを逃がしてやれない。逃がすもんか。

4/7/2023, 10:39:46 AM

 夕日を背に受けながら、ふたりで歩いている。
「今日が終わったら、オレはまた、おまえを忘れる」
「ああ」
 オレの記憶は、一日でリセットされてしまうのだ。
「このオレとは、さよならだな」
 正直、オレは悲しい。離れ難いと思う。けれど、時は容赦なく進み、セピア色の思い出すら作らせてはくれない。
「永遠に、さよならだ…………」
「……寂しくなるな」
 おまえも、同じ気持ちでいてくれるなら、オレは嬉しい。
 こんな別れを、オレたちは何度繰り返してきたのだろう?
 それでも、何度でも、オレはおまえに会いたい。

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