日も落ち外が真っ暗になった今、帰ってくると電気も点けずにゆらゆら揺れる火を見つめる彼の姿があった。
「っ、え?智くん?」
「んあ、しょおくん、おかえりー」
俺の声に気づいた智くんはふにゃふにゃと可愛らしい顔で手を振っていた。
「あなた、電気も点けずになにやってんの」
「えー?ふふ。たまにはいーでしょー?こういうのも」
イマイチ彼の考えていることが分からないが、まあ楽しそうならそれでいっかと考えを放棄した。
「ね、そこに突っ立ってないでこっちきなよ」
床に手をポンポンと叩いて隣に来るよう促した。
「これ見て何が楽しいの。良さが分かんないんだけど」
「もー、翔くんは全然ロマンチックじゃないなあ。このゆらゆらしてて消えそうで消えない力強い炎ってカッコいいじゃん」
俺には到底理解できない。このロウソクからそんなことを感じ取れるとは…やっぱり考え方や感じ方は全然違うんだなあ。
「…まあいいけどさぁー。飽きたらさっさと火消してご飯食べよ?」
「もお、なんか冷たくないー?…う、ご飯って聞いたらお腹空いてきた」
ぎゅるる、と智くんのお腹が鳴り、少し笑ってしまった俺を見て、へへ、と恥ずかしそうに笑った智くんはふぅーっと火に息を吹きかけた。
気温がぐっと下がりこたつから出られない今日このごろ。テレビを見ながら机にあるみかんを取ろうと手を伸ばしたら、突然隣にいる恋人がこちらを向いた。
「ねぇ翔くん」
「ん?どうしたの?」
「今からイルミネーション見に行かない?」
この寒さを知らないのだろうか。こいつは。
「えーやだよ、智くん1人で行ってきなよ」
俺は絶対この家、というかこたつから出たくない。これだけは死守しようと冷たく返した。
「なんでだよ。1人でイルミなんて寂しいだろ!」
「大丈夫だって。周りの人はあなたのこと見てないから」
「ひどっ!なんか今日冷たくない?」
ごめんね智くん。正直イルミはあんまり興味ないんだよなあ…。恋人は不貞腐れたのか、机に顎を乗せて好きでもないお笑い番組を見ている。
「しょおくん…謝るなら今のうちだよ?ほんとに俺だけで見に行っちゃうよ?いいの!?」
「あーはいはいどうぞいってらっしゃい」
「…」
ありゃ、本当に何も言わなくなってしまった。ちょっと強く言い過ぎたか…。
「いっしょに行きたかったなあ…」
目をうるうるさせてこちらを見つめてきた。自分の方が背が高いので少し上目遣いになっている。俺がこれに弱いと知ってか知らずか…。
「う…もう分かったよ。寒いから少しだけね」
「ふふ。やった」
にこっと笑った顔に不覚にもきゅんときた。
玄関のドアを開けた瞬間、家と外の温度の差に、思わず身震いした。
「うう…さむい」
ふう、と息を吐くと白くなった。
「あはは、翔くん息白いねえ」
「そういう智くんだって!」
笑いながら道を歩くのは、家にいるときより断然楽しい。たまにはこういう日があってもいいなと思った。
「さっとしくーん!」
その声がして教室のドアを見ると、俺の幼馴染の翔くんがにこにこしながら手を振っていた。
彼とは幼稚園からの付き合いでいつも傍にいてくれる親友である。高校も一緒で、俺より勉強ができる翔くんはもっと頭の良い高校に行けたのだが、『智くんと一緒にいられないなら意味ないよ』と告白もどきの言葉を言ってきて、そういうことは女の子に言ってあげなよ、と返したのを覚えている。
帰り道、翔くんは今日あの先生が厳しかった、とか体育の時間に靴紐が3回もほどけた、とか学校であったことをいっぱい話してくれた。くだらない話でも笑っていられるこの時間が、俺はとても好きなんだ。
「翔くんってどーでもいい話でも面白い話に変えるよね」
「ああ、ありがとう…って今どうでもいいって言った!?え、言ったよね!?」
「あははっ」
2人顔を見合って笑う。
いつまでもこの時間が続けばいい。
そして明日も、また一緒に帰るんだ。
「どうして流れ星に願い事をするの?」
隣にいるキミとベランダに出て、煌めく星たちを眺めていたら、不意にそう聞かれた。
「え…急にどうしたの」
「だってさ、どうせ宇宙の彼方に消えていくんだよ?意味ない気がする…」
「ふふ。そう考えると願い事って儚いよね」
そう話しているとキラッと一筋の光が走った。
「あっ!ねぇ!今見た!?すご…めっちゃ綺麗」
「ホントだね…」
さっきまで迷信を信じていなかったくせに、見えた瞬間、目を輝かせてはしゃいでいる。
「なんて願い事する?」
「もし君がこの空に迷っても、絶対見つけ出して傍にいたい」
「っ、え?」
普段こんな情熱的なことを言わないキミに、少し驚く。ちらっと横にいる恋人を見ると、星を見つめたまま平然としているが耳が赤くなるのが分かった。
「…流れ星に絡めてみたらこうなるのかな、って。う…なんか恥ずい」
「えぇ〜めっちゃ嬉しかったよ?」
笑ってみせると、頬を赤らめながらもつられるように微笑んだ。
「じゃあ、あんたは何て願い事する?」
「ん〜?秘密」
「ええー?けちー」
ははっと笑い合い、ああ、この時間がいつまでも続けばいいのに…と思った。まあ、自分の願い事は――恋人の言葉を借りるなら
"この空で出会った君をどこまでも守ってみせる"
かな…なんて。
ゼッタイに言ってやらない。
隣で酒に酔ってふにゃふにゃしている俺の恋人は、もう可愛くて仕方がない
今までこういう姿を他の人に見られていたら…と思うと嫉妬で壊れてしまいそうになる
「しょおくん」
貴方が可愛く舌っ足らずに言うときは、甘えたいときなんだって知っている
「なぁに?」
首をかしげ、その火照った頬をそっと包む
「おれ、しょおくんがいないとダメ」
潤んだ瞳でそう言われ、腑に落ちるものがあった
「俺もだよ智くん」
多分、俺は智くんほどかわいい感情でそう思っていない…他の人と笑い合ってると俺だけを見てくれればいいのにって思うし、その声で他の誰かを呼ぶなんて考えたくもない
いっそのこと、この部屋の中に閉じ込めたい…俺だけを見て欲しい…
「んふふ…そうしそーあいだね、おれら…」
眠気が襲ってきたのか、瞼を閉じ、こてっと胸の中に倒れ込んだ
抱きしめながら、一生この腕を離したくないと思った