聖地の鐘が鳴り、遠く軍歌が聞こえる
陽の光を求めて影を出る
まだ、頭の中で銃声がやまない
それでも、曇ることないあの日を覚えているよ
1日が最悪だったときも
100日それが続こうと
もしも今夜会えるのなら1000マイルだって
なあ、僕を止めないでくれ
昨日と今日とでは違うのだから
必ず朝日はのぼるのだからと
こんな馬鹿らしい世界でも
僕を信じて待っている
時間は止まってくれないのに
愛のために待っている
どうか、もう少しだけ待っていてくれ
そして、追いついたならまっすぐ受け止めてくれ
それからはもう、ここにいなくてもいいから
先に常春の国へ行った皆へ
海で拾ったガラスのカケラを繋ぎ合わせて送る
世間は僕が生きていくには少しだけ
明るすぎて、暑すぎて、煙たすぎた
焼け焦げるまえに自ら冷たい海へと
身を投げるしか無かった
お前らは火の国の住人だから
僕の気持ちなど分からないと
仲間にはそうやって当てつけを言って
水底に落ちた僕は
さらに深い海溝を見た
息苦しいまま、そこへ落ちていこうとした
しかし、その縁にはある男が座っていた
手招きされたので、その隣に座った
2人で底知れぬ深い溝をただ見つめる日が続いた
男の周りは水圧がやけに高かったが、心地よかった
ある日、やっと僕は顔を上げた
いつの間にか、朝日が水底を照らしていた
男はふと立ち上がると、僕を立たせ
「さあ、帰る時間だ」
そう言って僕を高くだきあげると、ふっと放した
潮の流れにのって、体はゆっくりとあがっていく
「また、いつでも」
体は揺らめく光源を目指してあがった
眩しくて、思わず目をつぶっていた。
ふと、大きな影がかかったのを感じて目を開けた
そこには、無数の、色とりどりのリボンが
クラゲの足のように揺らめいていた
そうだ、思い出した
僕の仲間はいつも
海に向かってリボンを垂らす
僕が水底へ自分から沈んでしまい
また自分から上がってこようとするまで
釣り人のように、気負わずに
命綱のリボンを垂らして待っていてくれるのだ
最後に岸壁を上がる難所だけ
僕をつかんでぐいっと引き上げてくれる
そんな命綱を
僕が落ちるたびに、そうやって
ただ、待っていてくれたのだ
僕は無数の命綱に覆われてのぼっていくさなか
徐々に光に目を慣らしながら
ふと、いつも、「ありがとう」を
伝えていないことを思い出した
帰ったら、伝えよう
きっと、今度こそ
とある船乗りの物語を読んだ
彼は一生を海で過ごした
海に育てられ
海に惑わされ
海を守るために戦い
海で死んでいった
海は、彼の産湯であり、墓場だった
彼の、故郷だった
しかし、僕はどうだろう
どこが、故郷と呼べるのだろうか
生まれた国は工場の国
ただ厚い灰色のガスに覆われていた
僕はそれしか記憶にないのだ
育った河の国は
その湿気により徐々に腐敗し
とうとうその悪臭に、僕は耐えられなくなった
昔バカンスを過ごした山の国は
日毎に僕の愛した姿ではなくなって
やがて草木に覆われて滅びるだろう
志して訪ねた遠い海の国で
無慈悲な潮風を吹きつけられて
僕の心は侵食されて、塩ですっかり錆びてしまった
では、いっそ旅こそ僕の故郷
だが、それはありえなかった
僕には、世界をたったひとりで放浪し
孤独を生活にする勇気がない
僕の故郷はどこだろう
どことも分からない国で
知らない土に骨を埋めるのか
ここで、生きて、死ぬのだと
そう決められるような場所は
僕に与えられるのだろうか
知らない国への郷愁が問う
僕にかえるべき場所はあるのだろうか、と
みんなそれぞれ
違う地獄にいるのだから
僕はあなたの苦しみが分からないし
あなたは君に不幸せをひけらかしてしまうし
君はあの人を思って悲しむ
あの人はあいつを心の底から憎むだろうし
あいつは僕を虫けらのように蔑んでいる
ああ だったらせめて
目指す場所は
同じ天国だったらいい
誰もが同じ場所に来て
全て許して笑えたらいい
アニメのエンディングみたいに
演劇のカーテンコールみたいに
ドラマのオフショットみたいに
あらゆる苦痛を
あらゆる不幸を
あらゆる悲愴を
あらゆる憎悪を
あらゆる嘲謔を
地獄なんて
まるでなかったかのように
みんなで
いつまでもいつまでも
踊って、歌って、笑って…
私より先に幸せになった人に
いろんな花をめちゃくちゃにひとまとめにした
ものすごくばかでかい花束をあげて
たぶんその人はこれ以上ないってくらいの笑顔で
「ありがとう」とかいうだろうから
そのまま手を振って帰るふりをして
6歩歩いたら
振り返って
花束ごと、その人めがけて
機関銃をぶっぱなす!
…
ごめんなさい、今日は心が荒んでるみたい