誰かの苦しみを食べた
誰かの怒りを飲んだ
誰かの痛みを舐めた
あの娘の悲しみを平らげた
とても甘い味がした
脳がふわりと溶けた気がした
誰かの感情を夢中で求めた
美味しくて
美味しくて
美味しくて
美味しいフリをして
私は動けなくなった
吐き気が止まらない
誰かの苦しみを
誰かの怒りを
誰かの痛みを
あの娘を悲しみを
気持ち悪くて
我慢出来なくて
飲み込んだものを全部吐き出す
私は汚れていく、汚れていく
汚れた私の苦しみ、怒り、痛み、悲しみ
誰もそれを食べてくれない
私のはきっと美味しくないから
皆のと比べて美味しくないから
私はどんどん、汚れていく
「−同情−」
天に昇っていく煙を眺めていた
煙突から真っ直ぐに立ち昇る煙
その煙が、少し揺らいだ
髪を乱す風にのって
足元に落ちる一枚の落ち葉がはらり
側には紅く染まった葉っぱで飾られた
紅葉の木が一本
鮮やかな色のその紅葉の木は
風に吹かれて落ち葉を散らす
それらが安っぽく散っていく様は
とてもとてもよく泣ける
使い捨ての涙を流すことを
私は強く望んでいる
私から切り離された空想で
私から切り離された現実で
何かの今日が消される度に
私の今日が息をする
「−枯葉−」
待合室の自動販売機でジュースを買って
本を読んで、水を飲んで
日記を書いて
なんだか眠くなってきた
何も生み出さなかった私
ごめんなさい、おやすみなさい
***
朝起きた
洗面台で、顔を洗って、口をゆすいで
水を飲んで
ベッドでボーッとしてると
窓のカーテンが開けられて朝食が運ばれてくる
今朝の献立
食パンとジャムとサラダとヨーグルト
不味くはないけど
不味くはないけど
廊下を散歩して、本を読んで、水を飲んで
またベッドに戻ってボーッとしてると
昼食が運ばれてくる
今日の献立
−割愛−
そんなにお腹空いてない
こんなに食べれない
中庭を散歩して、本を読んで、水を飲んで
またベッドに戻ってボーッとしてると
夕食が運ばれてくる
今晩の献立
野菜スープ
量が少なくて丁度良い
待合室の自動販売機でジュースを買って
本を読んで、水を飲んで
日記を書いて
なんだか眠くなってきた
何も生み出さなかった私
ごめんなさい、おやすみなさい
***
朝起きた
洗面台で、顔を洗って、口をゆすいで
水を飲んで
ベッドでボーッとしてると
窓のカーテンが開けられて朝食が運ばれてくる
今朝の献立
食パンとジャムとサ
「−今日にさよなら−」
金曜日、大通りのコーヒーショップ
いつも頼むドリンクをトールで買う
席を取って夜の車道を眺めると
窓に映るメガネをかけた私
オーバルフレームのメガネ
耳についた大ぶりのフープピアス
足首丈のロングトレンチコート
手に持ったホットの豆乳ラテ
考えていないふりしてるけど
私が気に入っているもの全部
君が好きだった物、結局
そりゃそうだ、君と紡いだ長すぎた歴史
どこを見ても君の糸が編み込まれていて
ほつれる糸を引っ張っても
糸を切り離すハサミが見当たらない
時間が経てばきっと忘れるだろう
その時に残った私の服は
どこかで売り飛ばせたらいい
これはどうでもいい道化話
私のお気に入りはいっぱいあるけど
君のお気に入りにはなれなかったね
「−お気に入り−」
死屍累々と積み上がる
赤い血染めのシャレコウベ
骸骨で出来た小山の上に
ソレは独りで立っている
髪は逆立ち、目は吊り上がり
切れた皮膚から血が滲む
かつて身につけていたものは
ほとんど全てが削げ落ちて
資格があるのは一人だけ
何にも優る者だけが
君を所有するだろう
誰が言い出したわけでもなく
気づけば始まる殺戮ショー
手にしたナイフを強く握って
君の為に刃を振るう
私は誰よりも強く、賢く、優れている
私は誰よりも君を手にする権利がある
私は誰よりも風雅で優雅
私は誰よりも×××で×××
全てが終わったそのあとに
唯一残った君のこと
私だったその生き物は
黒い血が滴るカギ爪で
君のその腕に手を伸ばす
私だったその生き物は
この世界で誰よりも
「−誰よりも−」