野ばら

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3/26/2024, 1:52:36 PM

「ないものねだっても仕方がないじゃない?」
宮沢はあっけらかんとそう言った。
「いやまあ?うちにお金がもっとあればなーとか、もう少し鼻が高ければとか、そういうことは思うけどね?ないものねだるより自ら勝ち取っていくのが私の流儀だもん」
ふたりきりの勉強会。雑談をしているうちに“結局人間ないものねだり”という話になって。でも宮沢はあまりそういうこと言わないよね、と言った言葉への返答があまりにも宮沢らしくて。確かに夜中まで自主練に励む小学生だったという宮沢の粘り強い性格だと、誰かを羨む暇なんてないんだろうなと思った。
自分のことをすぐに凡人だ凡人だというけれど、そのどんな困難にも真っ直ぐに立ち向かっていく心の強さは、やっぱり君だけの特別で、僕は本当にそれが羨ましいんだよ、と心のうちでだけ呟いた。
[3/26 ないものねだり]

3/25/2024, 1:35:07 PM

「本当はさ、いちご飴って好きじゃないんだよね」
今まさにいちご飴を舐めながら浅葱が言う。は?今それ言う?だって今浅葱が口にしているのは毎日私が甘いもの好きな浅葱に良かれと思って毎日渡していたいちご飴の最後の一粒だ。
「好きじゃないのに何で教えてくれなかったの…」
ショックのあまり思わず声が弱々しくなってしまう。ちょっと泣きそう。
「だってさ、僕のためにあんなに嬉しそうに飴くれるのに、好きじゃないからいらないなんて言ったら悲しいデショ。でも次の飴は一緒に選びたいな」
もちろん明日からもくれるよね?なんて笑う浅葱の顔を見ると、出そうだった涙もどこかへ行ってしまって。
「うん!」
と、放課後の寄り道についてワクワクし始めてしまう私は現金かもしれない。

[3/25 好きじゃないのに]

3/24/2024, 1:42:12 PM

「やっちゃったなー」
今朝家を出るときに少しだけ傘を持っていこうか頭をよぎってはいたのだ。。でも薄曇りの空模様と、折り畳み傘にしたとしてもデート用のかわいいミニバッグに不釣り合いなサイズの荷物が増えることが嫌でわざと楽観視した。朝一番に確認した天気予報の“ところにより雨”という予報に、ところによりってどこなのよと思いつつ降水確率自体は40%だったこともそれを後押しした。
その結果がこれである。待ち合わせのカフェを目前にした土砂降り。幸いにして時間に余裕はあるのでコンビニで傘は買える。でもせっかくお洒落してきたのにコンビニのビニール傘か、とちょっとだけテンションが下がった。
そんなことを言っていても仕方がない、と駅ナカのコンビニに足を向けるも考えることはみんな同じなのかまさかの傘が売り切れ。そろそろカフェに向かうか連絡を入れないとデートの時間に遅れてしまう、とスマホで時間を確認したとき、まさにそのデート相手である恋人から電話がかかってきた。
「今どこにいる?もう駅出た?」
「駅ナカのコンビニだよ、今からカフェ行くところ」
「オッケ、じゃあそこで待ってて!」
ニカッと笑う彼の顔まで想像できそうなくらい爽やかに通話が切れ、しばらくも立たないうちに彼の姿が目に入る。
ヒラヒラと振るのとは反対の手には一本の傘。
「降らなかったら邪魔かなーと思ったけど多分傘持ってこないだろうと思って持って来たんだ」
だから一緒に入って行こうぜって笑う彼の傘は濃い藍色で、私の今日のコーディネートには全然合わないんだけど、恋人との相合傘なんてそれだけでしあわせなのでやっぱり傘を忘れてよかったな、なんて都合のいいことを思った。
本日ところにより雨、いずれ虹!

[3/24 ところにより雨]

3/24/2024, 2:29:58 AM

自分勝手でずるくてバカな人。
100円で大騒ぎして、何にも知らずに高説ばっかり垂れて、思い通りにいかないと拗ねる面倒くさい人。
なのに、
カスタムもできない癖に普段行きもしないStarbucksに一人で行って誕生日プレゼントを買ってくれたり。
一度好きだといったチョコレートを毎年ホワイトデーに贈ってくれたり。
そうやって私にだけ甘い顔を見せるから、ムカつくあれやこれも許してあげようかなって少しだけ思うんだ。

[3/23 特別な存在]

3/22/2024, 1:30:54 PM

夕凪の気配を感じて、ぱちりと僕は目を開けた。
タンクトップに麦わら帽子の夕凪は、サイダー味のアイスキャンディを齧りながら河原に寝転んだ僕のことを見下ろしている。
そのアイスキャンディみたいな爽やかな青空が夕凪の後ろに広がっている。蝉の声がうるさくて、夕凪の声が聞こえない。
ぱっと夕凪が身を翻して河原を駆け下りて行く。夕凪、と呼んだ僕の声はやっぱり蝉の声がうるさくて僕自身にも聞こえなかった。慌てて身を起こして川を見るとそこには水面に浮かぶ麦わら帽子がひとつあるだけで。頭が真っ白になりながらその麦わら帽子に向かって馬鹿みたいに必死に急ぐ。水が冷たい、川が深くて足がつかない、麦わら帽子に手が届かない、それでも手を伸ばす、麦わら帽子が離れていく、息が続かない、目の前が真っ暗になる。
はっ、と、僕は目を開けた。
僕を見下ろす夕凪の口元は、笑顔を作ろうとして歪に歪んでいた。はくはく、とその口元が動くけれど僕にはもう何も聞こえない。
何度繰り返しても夕凪の声は僕に届かない。
ねぇ、バカみたいだね、僕ら。

[3/22 バカみたい]

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