浮遊物

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12/22/2023, 7:05:54 AM

東京の空は狭いな、と誰かが言っていた気がする。
産まれた時からそこに住んでいた身からすれば、
そういうものか、と思うしかなかった。

魂の片割れが欠けた気がしたある日、
ふと空を見上げた。

狭くて良かったのかも知れない。
こんなに蒼く晴れた日は特に、
欠けた片割れがいないからと
この空が続くところまで
探しに行きたくなってしまうから。


『大空』

12/11/2023, 2:27:52 PM

─ いつものように、定刻を迎えたので席を立った。
そのまま会社を出ると、駅まで歩き、
気さくな大将のいるいつもの居酒屋に向かった。

「いらっしゃい。お客さん、今日はお一人で?」
流れるように聞かれたその言葉は想定済みだ。
「そうなんだ。実はいつもの彼がこの度めでたく
海外勤務になってね。しばらくは1人呑みさ」
別に何の気なく言えていたと思う。

なのに、大将ときたら
「…奥の個室、今日は特別に
旦那が使えるようにしたげるよ。
思い切り呑んで心の澱みを流していきな」
そんな分かったような事を言う。
いや、分かりやすい顔をしていたのは私の方か。

「ありがとう大将。恩に着る」
やはり無茶なフリだったようだ。

『何でもないフリ』

12/8/2023, 3:40:47 AM

「気は済んだかい」
重い頭を声の主に向かって持ち上げると、
ひっくり返ったソファや割れたグラスが
散乱した部屋も自然と目に入って来た。

「…さぁ。済ませたくない気もするんで」
自分でもこんな強がりを言うほど余裕は無いのだが
最後の矜持が気持ちを鎮める気になれなかった。

「じゃあ、今度こそ済ませに行こうか」
自分の心を見透かしたように声の主は言う。
確かに、ここに居ても自分の気は一生晴れる日など
来るはずも無いのだ。

「…とことん気が済むまで行きますよ」
そう言って身を起こすと、
久々に世界が明るく見えた気がした。

『部屋の片隅で』

12/4/2023, 1:47:36 PM

「明日のご予定は?」
ベッドの中でまどろみ始めた頃、
隣でぐーすか寝ているはずのやつに
そう問われた気がした。
「明日は……
天気が良かったら買い物にでも行きたいな。
君も前に新しい靴が欲しいと言っていただろう」

はて、その靴は、
私が買わずとも、君は既に買っていたか。
この前、やっと捨てた靴が、
その一足だった気がする

「……今はもう履く足が無かったか」
意識がまどろみからうつつへ浮上すると、
孤独な暗闇にぽつり、そう呟いた。

『夢と現実』

11/29/2023, 12:39:42 PM

布団に潜り込んで来た相手の足があまりに冷たくて
思わず声が出た。

「さっき湯舟から出たばかりだよ?」
そういう相手の髪は確かにしんなり濡れていた。
一方で自らの足を構わずこちらの足に絡めて来た。

まるでこちらの熱をその足で舐めとるように。

だが今度はその足をさせるがままにして、
──明日の朝は布団から出るのに苦労しそうだ。
そんな予感を抱きつつ眠りについた。

『冬のはじまり』

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