浮遊物

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「気は済んだかい」
重い頭を声の主に向かって持ち上げると、
ひっくり返ったソファや割れたグラスが
散乱した部屋も自然と目に入って来た。

「…さぁ。済ませたくない気もするんで」
自分でもこんな強がりを言うほど余裕は無いのだが
最後の矜持が気持ちを鎮める気になれなかった。

「じゃあ、今度こそ済ませに行こうか」
自分の心を見透かしたように声の主は言う。
確かに、ここに居ても自分の気は一生晴れる日など
来るはずも無いのだ。

「…とことん気が済むまで行きますよ」
そう言って身を起こすと、
久々に世界が明るく見えた気がした。

『部屋の片隅で』

12/8/2023, 3:40:47 AM