─ いつものように、定刻を迎えたので席を立った。
そのまま会社を出ると、駅まで歩き、
気さくな大将のいるいつもの居酒屋に向かった。
「いらっしゃい。お客さん、今日はお一人で?」
流れるように聞かれたその言葉は想定済みだ。
「そうなんだ。実はいつもの彼がこの度めでたく
海外勤務になってね。しばらくは1人呑みさ」
別に何の気なく言えていたと思う。
なのに、大将ときたら
「…奥の個室、今日は特別に
旦那が使えるようにしたげるよ。
思い切り呑んで心の澱みを流していきな」
そんな分かったような事を言う。
いや、分かりやすい顔をしていたのは私の方か。
「ありがとう大将。恩に着る」
やはり無茶なフリだったようだ。
『何でもないフリ』
12/11/2023, 2:27:52 PM