名前の無い音

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6/4/2022, 8:59:30 AM

『再会』


待ち合わせは
懐かしい街の 懐かしい場所
一年半ぶりの再会

僕は 待ち合わせ場所に向かった

※ ※ ※

大学を卒業したら語学留学に行こうと決めた
オーストラリアへ1年間
語学と サーフィンをしに

実は
ずっと 海外へ行ってみたいと思っていた
夢は 待っていても叶わない
叶えるためには 行動すべし!

そんな僕の隣には いつも彼女がいた
気づいたら いつも隣にいた

付き合ったつもりはないけど
たぶん きっと そんな関係

嫌いじゃない でも 実はそんなに好きでもない
このまま結婚……とかは
正直 考えられない
こんなこと
本人には 言ったこと無いけど

彼女は いつもニコニコしていた
僕のとなりが好きだといっていた
海に連れていくと
砂浜に乗り入れた 車の中で
何時間でも 待っていてくれた

つまらなくないの?と聞くと

「見ているのが好きだからいいの」

可もなく 不可もなく
正直に言えば 都合が良かった


大学も卒業が近づいて
僕もアパートを引き払う日が近づいてきた
毎日 少しだけ 彼女は寂しそうに見えた

だけど僕は
これからの生活の方が
楽しみで 仕方がなかった

アパートで過ごす最後の日
彼女は僕にプレゼントを持ってきた

「これ 使って」

それは僕がずっと欲しがっていた
カメラだった

「うわ!マジで?ありがとう!」

防水機能もついている デジカメ
前に電気屋で見て 欲しいなぁとつぶやいた
でも 高かったから手がでなかった
それを彼女は覚えていてくれた

僕らはその日 いつも行く定食屋で
最後の夕食をとった

僕はいつものハンバーグ定食
彼女はいつものチキンドリア

小さな定食屋だけど 学生が多いからか
安くてボリュームがある

「なんだい 最後なの?まだございん!」

おばちゃんがニコニコしながら肩を叩く
僕たちは満足して店を出た


店から出ると
目の前には 街の夜景が広がる

僕の大学は街中から少しはなれた
小高い山の上にある
だから 夜景がとてもキレイに見える

「キレイだね」
「こっから見える夜景は最高だよ」
「また 見たいな……」
「見に来たらいいさ」

僕は 彼女の少し悲しそうな顔を
見て見ぬふりをした

「じゃあね!元気で頑張ってね!」

彼女が言う

「おう!向こうに行ったら メールする」
「気をつけてね!」
「元気でな」
「私 ……ちゃんと待ってるね!」
「……いや ……待たなくてもいい…… いいからね……じゃあね~!」
「………」

僕は 逃げた
逃げるように その場を去ったんだ

何もなかったかのように
二人で過ごした時間なんか
嘘だったかのように

僕は その街を後にした

※ ※ ※

オーストラリアでの時間は
あっという間だった

うまく 言えないが 激動
最初は言葉もわからず
ただ ただ 勢いで動いていた

ホームシックにはかからかったが
少しだけ 日本が 懐かしく感じた
そして……彼女を 懐かしく感じた

メールするとは言ったけど
月に1回程度のやりとりと
僕から絵ハガキを1枚送っただけ

それでも 彼女からは
いつも長い文章と
僕を待つというメールが届いた

なんとなく 嫌な気持ちはしなかった

そして 1年半が過ぎて

帰国が決まり
僕は母校の お世話になった先生に
挨拶をしにいくため あの街に行く事にした

そして 僕は彼女にも その連絡をした

『良かったら 学校の近くの
あの定食屋で飯でも食べない?』

そう メールに書いた

『喜んで!楽しみにしてるね!』

彼女からの返事を
当たり前のように読んで
僕はパソコンを閉じた

※ ※ ※

懐かしい街は 変わっていないようで
変わっていた

知っていた お店が無くなっていたり
新しいビルが建っていたり

1年半って 結構長いんだなと
改めて思った


彼女との待ち合わせは 懐かしい場所

僕は 少しだけ 緊張して
待ち合わせ場所に向かった

あの 定食屋はまたやっていた
1年半でつぶれるような店じゃない

「いらっしゃい~ あら? あれぇ!元気だった~?」

おばちゃんが覚えていてくれた。
席に案内されて 座ると
すぐに店の扉が開いた

「こんばんは~」

あれ?
あぁ、彼女だ……けど……
なんだか雰囲気が違う

「あ!いたー!ごめんなさい。遅れちゃった」
「いや。いいんだけど……」
「久しぶりだね!元気だった?向こうは楽しかった?」

話し出すと 変わらずに彼女だとわかる
僕はなんだか急に嬉しくなった

彼女は可愛かった
違う『可愛くなっていた』

たぶん 痩せて 髪型も変わり 雰囲気が
全く変わっていた
そのくせ 話す内容は昔と変わらない
僕は どんどん 彼女に惹かれていくのがわかった

彼女はニコニコしながら
僕の話を聞いてくれる
どんな話でも 頷いて 笑って聞いてくれた

時々 笑うと 耳のピアスが揺れた
ピンクのさくら貝が 揺れている
やわらかく ウェーブがかった髪と
よく似合う

「なんか……雰囲気 変わったね」
「そうかな?たぶん 楽しみにしてたからかな?」

また コロコロと笑う

「ねぇねぇ そう言えば 私があげたカメラ 役にたった?」
「え?あぁ 実は壊れちゃってさ 」
「え?そうなの?」
「うん 向こうで 壊れちゃって 捨てちゃったんだよね」
「捨てたの??やだー」
「壊れたやつ 持ってても仕方ないじゃん」
「それはそうだけど……」

一瞬 ほんの 一瞬
彼女の顔が曇ったように見えたけど
また すぐに笑顔になった

「でも 一応……使えてたなら いいかっ!」

僕らは
変わらないハンバーグ定食と
チキンドリアを食べ
店を出た

店を出ると 相変わらずの夜景
街の光を堪能できる

彼女の隣を歩く
自然と 彼女の手を握った

その瞬間
びっくりしたように 彼女は僕を見た

僕は彼女に言った

「ね?この後 もう少し話さない?
僕が撮ってきた向こうの写真見せたいんだ」

彼女はしばらく黙って考えてから
僕が繋いだ手を ゆっくりと離した

「……ごめんね」
「え?」

意外な答えに 僕は耳を疑った

「ごめんね。行けないや……」
「なんで?え?どうして?
あぁ そっか もしかして彼氏が出来たの?」
「……違うよ」
「じゃあ……どうして……」
「………好きじゃない……かも」
「え?」

僕は 固まった

「なっ えっ?……」
「わたしね 知ってた
別に 私たち付き合ってたわけじゃないんでしょ?私は彼女じゃない 一方的に私が好きだっただけ……」
「……」
「ずっと ずっと 待ってた 1年以上
次 あなたに会えた時のために いっぱいいっぱい頑張った……」

彼女は 泣いていた

「ずっと ちゃんと 私を見て欲しくて 頑張って 努力して あなたに ちゃんと見て欲しくて……」
「……見てる ……見てるよ!」
「違うの! ごめんね
今日 会うまで あなたに会うまで あなたのことが 誰よりも好きだった!
でも 今 気づいたの 本当は……もう 好きじゃないのかもしれないって」
「………」

呆然とする

「ごめんなさい」
「………」
「あなたがくれたの このさくら貝 覚えてなんかないでしょ?私 嬉しかった
だからピアスにしたの 忘れたくなかったから……可愛いでしょ?でも そんなの気づきもしない」
「……あ、あぁ」
「あなたは わたしの 全部だった だから あなた好みの女の子になりたかった」
「そんなの……」
「でも あなた好みの女の子になったところで あなたはあなたのままだもの……」

わかるよ……わかるよ……
言いたいことは よくわかる
今までの 全てのツケが回ってきたんだ

「……つまりは 僕はフラれるってことだね」
「……」
「なるほど そりゃそうか ひどい男だったからな わかる」
「そんなことは………ない……」
「……ごめんな」
「ごめんなさい……」

彼女は 深く深く 頭を下げた

「……失恋したわー」

僕は 空を見上げながら言った
思った以上に 星が綺麗だった

「フラれたー やらかした 自分のこと好きな子にフラれるとかって最低な奴だな バカだ ……ごめん 本当にごめん」

僕は もう一度 彼女に向き合った

「ごめん 一回 ちゃんとフラれるわ」
「え?」
「そして もう一回 チャンスをください」
「どういう意味?」
「ちゃんと告白する その時に答えください」
「でも……」
「わかってる その時にもう一回振ってくれてもいい」

目が覚めた
悪い夢を見てたんだな
こんなにも こんなにも想ってくれて
必死になってくれていた子を
僕は ちゃんと見ていなかったなんて

「これは 幸せな失恋だよ バカな男だ」

ふふっと笑う
彼女もつられて 少し笑う

「……また 連絡していいかな?」
「……いいよ 返事するかは わからないけど……」
「もちろん いいよ それでも 僕は……
……また君と 出会いたい」

次は 同じことは繰り返さないよ

夜景しか見ていなかったけど
空を見上げると 星が沢山 瞬いていた

そうさ 見上げなかったら
気づかなかったんだ

そのまま気づかないなんて
ひどいじゃないか
あんなに 瞬いているのにさ


スタートラインはここ
夜景と満天の星降る場所からだ

6/1/2022, 4:28:22 PM

『不毛な世界』


寝返りを打つ
なにかにコツンと 肘が当たる

(あ……まだ居るんだ……)

薄目を開けると
ぼんやりと あなたの背中が見えた

まだ 朝には少し早い

そっと 背中に触れてみる
そのまま 寄り添うように近づく
あなたの背中に おでこを当てる

「んー?……なに?」
「まだ 居たんだと思って……」
「……あぁ ……うん」
「起きる?」
「いや まだ」
「……もう少しだけ 一緒に寝てたい……」
「いいよ……」

あなたの背中が 揺れて
体が動く

「腕枕?珍しくない?」

少しだけ 笑う

「たまにはね」

なかなか こんな風に
あなたを 独り占め出来る事はないから
ほんの少し 特別な時間

でも たぶん もうすぐ帰っていく
あなたが暮らす あなたの世界に

罪悪感がないのかと言えば嘘だ

あなたの隣に いる時間だけ
罪の意識が 消える

(本当に このままでいいの?)

いつも 自分に問いかけるが
答えを 出してしまう 勇気がない

でも 本当はわかっている

わたし 本当は
あなたの事 何も知らないんだ

好きな食べ物も
よく見る ドラマも
好きな俳優も
何も 何にも知らない

そして
あなたも 本当は
私の事 何も知らないの

嫌いな 食べ物も
苦手な 映画も
嫌いな歌手も
何も 何も知らない

そうなのよ
そんなものに 興味は無いのよ
本当は
私なんかに 興味は 無いのよ

知ってる 知っていたよ
『愛してる』なんて
ただの 譫言なんだって

その 譫言だらけの中で
私は 生かされているんだって

あぁ くだらない 人生
何もならない 私の人生

本当はね 本当はさ
あなたなんか 大嫌いなのよ
あなたなんか クソくらえなのよ

夢と現実の間
意識がゆっくりと 消えていく

弱い わたしよ
早く夢から覚めなさいよ

あぁ

そうよ
嫌いよ
あなたなんか 大嫌いよ
最低よ 最低な人間よ
知っているよ 知っているのよ

そんな最低で
大嫌いな人間を 私は
ただ ただ
求めてしまうのよ


時間だけが
過ぎていく部屋の中で
わたしたちだけが 生きている


外は
梅雨の始まり
じっとりとした空気の朝が
待ち構えていた

5/31/2022, 2:17:53 AM

出来るなら
あなたと 一緒に
過ごしたかった

叶わなかった
未来

そんな
夢を見た

目覚めても
何も変わっていなかった


真夜中の 午前三時
外は 優しい 雨の音

何年も前の
古ぼけた携帯電話

眠れなくなった夜に
あなたのメールを
読み続けている

大丈夫
私は ちゃんと 前に
進んでいる

だけど
たまに 足踏みをしたくなる

そんな
雨の降る夜

5/29/2022, 6:29:52 PM

『電話』


『婚約したんだ 結婚が決まったんよ』

先輩から電話が来た時 私はたぶん
目一杯 頑張った

「本当ですか?やっとじゃないですか!
おめでとうございます!」

大好きな先輩とその彼女さん
二人ともに 私はとてもお世話になった

『大好きな』って言うと
誤解されそうだけど 別に 奪いたいとか
別れたさせたいとか そうじゃない

本当に 本当に お似合いの二人で
私は 二人とも大好きだった

もちろん わたしなんか 子どもだし
相手になんかされるわけもなく

二人にとっては 妹みたいなもの
わたしは いつも二人を
素敵だなぁって思って 見ていた


ただ……ただ……

私の
心の
奥の
底の
下の

ずーっと ずーっと隅の方に
誰にも気づかれないように
押さえつけて 隠していた 気持ちが
あったんだ


「本当に おめでとう ございますっ…!
良かった 良かったっ!……」

電話だから 見えないよ
だからさ
ちょっとくらいなら
わからないさ

わたしの目から ホロホロと
涙がこぼれた

なんで泣くの?
なんで?
嬉し泣き?嬉しいの?

………

違うよ
違うじゃん
素直になれよ 認めろよ


一瞬 無言の時間が流れた
その時

『……ごめんな』

突然 先輩が言った

『………喋らなくていいから ちょっと
こっから俺の勝手なひとりごと な

……知ってたよ
知ってたから 一番最初に 俺の口から伝えたかった
それだけ ……
違うかもしれないけど……
それだけ……』

私は 黙って 唇を噛んだ
息を飲み込んで ゆっくり吐き出す

「はぁ?なんの事ですかっ?
なにいってんだか さっぱりわからんですよ!
なに かっこつけちゃってるんですかっ!
笑える~!!」

わざとらしく 笑ってやった

『……マジかー!そうかー!違うかー!
いや いいんだ いいんだ
ひとりごとだからさ

なんだよ 残念だなぁ
たまには格好つけさせてよ
独身最後に 言ってみたかったのさ!

……悪かったね
ま そーゆーことで 今から他にも連絡入れなきゃ』

「了解で~す!ありがとうございました!
おめでとうございます!何かみんなでお祝い考えますね! お幸せにっ!!」

電話を切る

切った瞬間に わたしは
声をあげて 泣いた

溢れる涙で 溺れそうになりながら
声をあげて 泣いた

好き 好きです
大好きです

叶わないのは知ってた
絶対に叶わないのは知ってた

だから 一番奥底に封印したのに

バレてたの?
気づかれてたの?
いつ?
どこで?

泣きながら ベッドに伏せる

大丈夫 大丈夫
誰にも見られてないから

この気持ちを また
箱に詰めて 心の底に沈めてやろう

大丈夫 大丈夫
明日になったら きっとまた 笑えるから
笑ってみせるから

だから 今日だけは
もう少しだけ 泣かせてください


「ごめんね」

あなたの優しさを
あなたの言葉の意味を
私は ちゃんと 知っていました

5/29/2022, 9:40:02 AM

『好き 嫌い』

自分の腕が 嫌いだった
太いからとかタプタプしてるからとか
毛深いからとかではなくて
アザがあるためだ

左側 二の腕から肩にかけて
ちょっと大きなアザがある

小さい頃 あまり気にしたことは無かったが
お年頃と呼ばれる時期になると
とても気になった

制服の半袖が嫌だった
体操着の半袖が嫌だった

必ず聞かれる

「どうしたの?大丈夫?痛たそう!」

こちらは痛くも痒くもない
ただ そこにある 何か

いつからか 私は
長袖の上着を手放せなくなった

プールが嫌だった
海も苦手

そもそも
夏が来るのが嫌だった



「なんでいつも長袖なの?暑くない?」

あなたが 初めてそう聞いてきた時
私は 少しだけ 嫌な気持ちになったよ

私の腕にある 何かしらを
あなたに知られるのが
なんとなく 嫌だったんだ

「まぁ ちょっとね」
「なに? ひみつ?
めちゃめちゃ なんか お絵かき いれちゃってる?」
「そんなんじゃないよ」

わたしは なんとなく 上着を脱いだ

「これ なんか あるの 見えるの 嫌で」
「痣?…… いいじゃん」
「え?」
「あ ゴメンゴメン! かわいいよ!」
「は?」

そして 笑いながら言った

「上着 いらないじゃん」
「なんか 嫌なんだもん」
「じゃあさ……」

あなたは 私の左側
ちょっとだけ 後ろに立った

「俺が ずっと ここに立ってたら
他の人からは 見えないよ」

少し見上げる 左側
あなたは にっこり笑顔だった

「俺だけなら 見てもいいでしょ?」
「それ……どういう意味?」
「……まぁ そういう意味!」

これでひとつ 秘密が無くなった

ひとつひとつ 秘密が無くなると
心配も ひとつひとつ 消えていく


* * * * *

あれから
彼は 相変わらず 私の左側を歩く

あなたの隣は 居心地が いい

半袖になるのも 悪くなかったよ

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