道は1本ではない
まるで木のように
何度も曲がっていて
何度も枝分かれをしている
そうでないと光には辿り着けないから
歩みを止めなければ
ただ光を追い続ければ
いずれ輝かしい世界に辿り着くだろう
ただし勘違いしてはいけない
光は人生じゃない
ただ光を追い求めた
あなたが育てた木
それがあなたの人生だ
はたしてどんな木を
あなたは育てるのだろうか
「岐路」
雲一つない快晴
丘の上で地面に座り込む2人
俺は少し腰を丸めた
俺より少し低い肩を
背筋を張って寄せてくるから
ただ黙って辺りを眺める
下に建ち並んでいた建物は跡形もなく崩れ
人々の喧騒に塗れた交差点も
今では静まり返っている
見たこともない明るい
流星群が降り注ぐ
もちろん俺たちの方にも
綺麗だね。
小さな頭に俺の頭を重ねて
そう問いかける
繋がれた手は硬く握られていた
「世界の終わりに君と」
頁を捲る手を止めて小さな窓を眺める
昼か夜かも分からない曇天
今にも雨の降りそうな湿っぽい空気
頭痛が止まらない
目を閉じると今でも鮮明に思い出す
まるで悪夢のように
何度も
何度も
救急車の音が近づいてくる
俺は大きく息を吸い
止まりそうな心臓を必死に動かす
大丈夫、大丈夫だ。
ただひたすら自分に言い聞かせる
救急車の音が遠のいていくと
再び身体が正常に働きだした気がした
今日はオール確定だな、
張り詰めた筋肉を意識的に緩めながら
開いていた頁に変色した銅の栞を挟む
本を丁寧に机の上に置くと
空のマグカップを持って立ち上がった
机の上には読み込まれた本と
冷めた紅茶の入った色違いのマグカップ
「最悪」
窓から差し込む光がキラキラ輝いて
渋い声のおじいちゃん先生がBGMを奏でる
わたしは斜め前に目を向ける
少し猫背な背中
机の中に窮屈そうに詰め込まれた足
脇腹にシワの寄った白いワイシャツ
軽く座り直して窓を眺める横顔
とっさに教科書を立てて顔を隠す
「やばい。見すぎた。」
少し教科書をおろし、さりげなく周りを確認する
「バレてなさそう。セーフ。」
頬が緩み、小さくため息をつく
そしてまた一点を見つめる
これはわたしだけの秘密
「誰にも言えない秘密」
手に馴染まない鍵を握りしめて
見慣れない扉を開く
窓から差し込む眩しい光
少しくすんだアイボリーの壁
艶のあるナチュラルなフローリング
所狭しと敷き詰められた段ボール
ここは大都会にひっそりと佇む小さな孤城
わたしと苦楽を共にするであろう唯一無二の相棒
わたしは姿勢を正し、静かに一礼した。
「狭い部屋」 by 翠蘭