小さな玄関
きしむ床の音
「おかえり」と笑う声が
今日の疲れを包んでくれる
何気ない夕飯の匂い
重ねた器のぬくもり
言葉にしなくても伝わる
“あなたがいてくれて嬉しい”の想い
離れても
時が流れても
胸の中にはいつも
帰る場所がある
それが――
家族という名の
灯り
山は語らない。
けれど、その沈黙が
心の奥に触れてくる。
苔むす岩をすり抜ける風、
時折聞こえる鳥の歌、
すべてが、
「いまここ」に満ちている。
湖は凪いでいた。
波紋ひとつないその面に、
空の色と、過ぎし日の夢が重なる。
私はただ、立ち尽くす。
その静寂の中で、
心のざわめきが、
ひとつずつ剥がれていくのを感じながら。
山は昔からそこにあった。
湖もまた、
幾千もの季節を映してきた。
けれど、
この美しさに初めて出会ったような、
そんな錯覚にとらわれるのは、
きっと私の中の時間が、
今ようやく、ここに還ったからだ。
何も求めない風景。
何も証明しない存在。
だからこそ、
私のすべてを受け入れてくれる。
沈黙の中に、
言葉にならない祈りがある。
そしてその祈りは、
風となって空へと昇ってゆく。
私は小さな存在。
けれど、
この景色の中にいることで、
限りないものと繋がっている。
美しいとは、
きっと、何かを「超えている」こと。
この山も、湖も、
ただ在るだけで、世界を照らしている。
君と歩いた
あの 海辺の道
足元には 白い波
肩には 淡い陽ざし
風がふたりの声をさらって
貝殻だけが それを覚えていた
笑ったね
なんでもない話で
すべてが 愛おしかった
小さな貝を拾って
「これ、君みたいだね」って
君は 笑った
時間は流れ
季節は過ぎて
今 ひとりで歩く この浜辺
でも
耳をすませば
波の音にまぎれて
君の声が 聴こえてくる
君と歩いた道は
いまも ここにある
砂に 想いを残したまま
小さな庭に ひっそりと咲く
名もなき夢の花よ
風に揺れ 光に染まり
その姿は ほのかにふんわり
明けゆく空に そっと寄り添い
朝露をまとい 笑顔を咲かせる
誰も気づかぬ その美しさ
心の奥で 誰かを待つ
夢見る少女のように
希望の種を 今まいて
無限の空へ 花を捧げ
その一瞬を 大切に生きよう
たとえ名もなき花でも
愛は確かに そこにある
ふんわりと 柔らかく
夢を見続ける 少女のように
さあ行こう、一峰へ
静かな風が呼んでいる
遠くに見えるその先は
まだ見ぬ世界、まだ知らない場所
足元の小道を歩けば
きっと、花がひっそりと咲いている
ひとつひとつの足跡が
優しく、優しく
道を作っていく
迷うことも、きっとあるだろう
それでも大丈夫
空は広く、風は柔らかいから
一歩を踏み出すその瞬間に
すでに、答えは見つかっている
さあ行こう、一峰へ
手を伸ばせば、手のひらに
温かい陽の光が
きっと包み込んでくれる