山は語らない。
けれど、その沈黙が
心の奥に触れてくる。
苔むす岩をすり抜ける風、
時折聞こえる鳥の歌、
すべてが、
「いまここ」に満ちている。
湖は凪いでいた。
波紋ひとつないその面に、
空の色と、過ぎし日の夢が重なる。
私はただ、立ち尽くす。
その静寂の中で、
心のざわめきが、
ひとつずつ剥がれていくのを感じながら。
山は昔からそこにあった。
湖もまた、
幾千もの季節を映してきた。
けれど、
この美しさに初めて出会ったような、
そんな錯覚にとらわれるのは、
きっと私の中の時間が、
今ようやく、ここに還ったからだ。
何も求めない風景。
何も証明しない存在。
だからこそ、
私のすべてを受け入れてくれる。
沈黙の中に、
言葉にならない祈りがある。
そしてその祈りは、
風となって空へと昇ってゆく。
私は小さな存在。
けれど、
この景色の中にいることで、
限りないものと繋がっている。
美しいとは、
きっと、何かを「超えている」こと。
この山も、湖も、
ただ在るだけで、世界を照らしている。
6/10/2025, 2:52:39 PM