「二十歳」
生まれ出でてから積み重ねた日々が二十年を数えただけにすぎない年に、人は特別な意味を見出す。祝福と引き換えに責任を背負うことになる若人たちに、ただ、幸あれ。
『君と一緒に』
隣にいるのに遠かった。君が何を考えているのかが分からなくて、紡ぐ言葉の裏の意味ばかりを探していた。そんなんだから、君の"ほんとう"にさえ気が付けないんだね。
一緒に居てくれるだけで満足していれば良かったのに、欲深くて愚かで傲慢な僕は、それ以上を求めていた。僕は四六時中君のことで頭がいっぱいなのだから、君も同じくらい僕に溺れてほしいと。
目に見えるものだけがすべてじゃないと、果たして本当の意味で分かっていたときはあっただろうか?分かりやすい印を欲しがって、確認できる安心ばかりを求めた。君が疲れてしまうのも当然だったのかもしれない。
君と一緒に過ごした日々の、優しくて美しい尊さに、僕は終ぞ気が付かなかった。失われた後にその価値を知って、後悔ばかりしている僕の、あまりに愚かな醜態を笑ってくれ。そうすりゃ、僕だっていくらか救われるかもしれないから。この期に及んで自分のことばかりの僕の卑しさには、どうか見ないフリをしておくれよ。
『冬晴れ』
冷たい風が肌を刺す。雪の降らない朝は寒い。
都会のボンは知らないだろうが、雲ひとつない晴れの日の、空高い朝がいっとう寒いのだ。
耳当てとマスクと手袋、そして何より、たっぷりとした生地のマフラー。冬にはこれがないと、かじかんで凍えてしまう。
水蒸気は一瞬で結晶に。ほぅと吐いた息は白い。
厚い布さえ染みてくる、凍てつく冬の冷気が、遠い春を恋しがらせる。
そんな、ある冬の晴れの日。
『幸せとは』
誰にも掴めない、白昼夢のような陽炎。
手を伸ばすほど遠い、蜃気楼のような幻。
手にしている時は気付けない、当たり前という名の奇跡。
『日の出』
山の端、あるいは水平線に向けて、空の明度は徐々に上がっていく。濃紺が群青、天色になって淡青へ。青が白に変わる過程のなんと美しいことか。
空の際は薄らと陽の色に染まっている。黄とも橙とも取れぬ、あるいは桃色にも見える絶妙な彩は、空の青と混じり合って雲を淡く色付けている。
「春はあけぼの」から始まる一章節を口の中で転がす。一千年も昔の表現に、人の世の唯一の不変を見た。著者の豊かな感受性と高い表現力は、千年の時を超えてなお色褪せない。
青が明けてゆく。陽の色が強くなってゆく。一瞬の閃光が辺りを染め上げる。命の星が姿を現すその瞬間に、私は世界の美しさを知るのだ。