頭上には満天の星。流れ星みえるかな。もし流れたら、私は、あれをお願いしよう。
草原に仰向けになった。よし、これでもう見逃すことはない。
それから隣にいるそいつに声をかける。何を考えてるのか、いつもそいつは、ミステリアスな雰囲気を漂わせている。
「突っ立ってないで、寝転がってみなよ。気持ちいいんだぜ」
そいつは私を見下ろし、
「おまえ、いつの間に」
といった。あいかわらず、感情が読めない奴だ。
ただ髪を風になびかせて、気持ちいいのか、母に撫でられてるみたいに目を細めている。
あ。
いま、夜空に引かれた斜め。うわあ、願い事するの忘れてたわ。
春爛漫 二週間後に 桜散る
「書いて」の俳句
「少年よ夢を抱け」
「……先生」
「少年よ、それを抱くのが早ければ早いほど、達成される確率は上がるのよ」
「……苦楽先生」
「なあに?」
俺は迷っていた。言いだすべきかを。何をかって。この茶番劇の幕をおろす台詞をである。
「パクってますよね」
「……何の話?」
「いや、だから」
「……」
「それって、アメリカの教育者クラークが札幌農学校を去る時に学生たちに残したことば、のパクりですよね」
カップから唇を離すと、口の中にコーヒーの苦味がひろがった。
それをゆっくりと噛みしめるわたし。本を読むときのお供としてコーヒーを飲むのだが、今日のは豆が違うのかいつもより苦かった。
しかしこれも……。
「やっぱり、最高」
至福のひとときに思わず声が漏れる。わたしはコーヒーなら何でも好きなので、今日のも飲めた。
雨が降ると、きまって足は、角を曲がった。まっすぐつづく道をゆけば駅に着くというのに。
路地裏にひっそりと佇むこの店に、はじめて連れられた日も、たしか雨が降っていた。
コーヒーを飲みながら、本が好きだった君との想い出が走馬灯のように駆け巡った。
硬く目をつむる。不思議と涙はこぼれなかった。
いま、これだけは、はっきりといえる。これからもここでわたしはコーヒーを飲み続けるだろうと。もうこの世にいない君にもういちど出会う日まで、きっと。
集中すると起きることでそのときも一瞬のうちにかなり時間が経過していた。わたしは嫌な予感がして顔をあげた。ででん、という効果音を添えて黒板を埋め尽くす白い文字。
ほんとうに勘弁してほしいよなぁ、でもしゃあないよなぁ。もういちどペンを手にとる。キーン、コーン……。もちろん、予鈴じゃないよ。ノートやらペンやらを片付ける物音がこうして聞こえてくるわけだし。
「今日のとこテストでるからなー」ぐさっ。こうなりゃ出るとこ出るぞ。とどめを刺されたわたしは最終手段を選び、となりの子に声をかける。「ねえ」「なに」「ノートみしてくれない?」「は」なんだかこれ第三者からは男が女に変な絡み方したときの図に見えてるよな。などとなんとなく頭の隅で考えながらわたしは手を合わせ、つむじを彼女にむける。
「お願い」「むり」「そこをなんとか」「しつこい」なに、この確定演出。いやまじでなんでこんなに嫌われてるのかわかいし、もし何か気に食わないことしてたなら言ってほしい。「わかんないの?」