ひょいと箸でつままれた唐揚げは、その肉厚のダウンを脱ぎすてた。
かなしげに彼女は薄着になったそいつを見つめる。
「寒そう」
そして、あんぐりと空いた口へ放り込んだ。
唐揚げは彼女の胃にすっぽりおさまったらしい。満足そうに彼女は腹をさすり、口外にガスを吐き出した。
「ご馳走さま」
手を合わせたところで、一部始終を傍から眺めていた男は口を挟んだ。
「まだあるけど?」
男の持ち上げたトレイはゴロゴロと音を立てた。そっと彼女が覗きこむと、胡麻団子が三つ転がっている。
「もう食べられないよ〜」
白銀の絨毯の上で列をなした色とりどりのスノーボードには、すべて番号が振られていた。
「ナナジュウイチ、ナナジュウイチ……」
何年も巻数を重ね続けた漫画から一冊を選びとるみたいにして、自分の板を見つけ出す。同じようにそのへんにいるレンタル組の猿真似でしかないが。
「はやくいこうぜ」
長屋にうながされ、慌てて板をとる。ずしりと木の重みが手にのしかかる。
雪に苦戦していたさっきまでとはちがい、人が変わったように長屋は慣れた手つきでそれを担ぐ。
そして気が遠くなりそうなほど小さいリフトのほうへ、振り向きもせずそそくさと歩いていった。
これまで目にしてきた積雪量を合わせてみても、これほどのゲレンデはつくれまい。
さきほどレンタルした鎧のようなスノボウェアにがっしり身を包まれ、僕らは踏みなれない深雪に足をとられていた。
「めっちゃあるやん!」
長屋に遅れをとりながらも、ようやくの思いでたどり着いた場所には、ずらりとカラフルなボードが列をなしていた。
「裏に番号あるから」
すこしの疲労が、興奮が長屋の白い息に混じっていた。
スキー場へ向かうツアーバスに揺られ、僕らは冬山へやってきた。高く険しい山道をぐるぐるとバスは右に左に進んでいく。
「綺麗やなあ」
窓に鼻を押しつけながら長屋はそう感想を漏らした。つられて僕も窓一面の銀世界をみやる。
「美味そう」
「ケーキみたいやな」
しばらく目の前にひろがる圧巻の景色に釘付けになっていた。
「晴れてよかった」
乗車してからというもの長屋はスマホをみるや、逐一僕に雲の動きを知らせた。彼のその熱量に若干引きつつも、相槌はいつも震える。
「ほんまにな」