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3/1/2024, 9:46:12 AM

【列車に乗って】

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拝啓 この街のみんなへ

お健やかにお過ごしでしょうか?
みんなのお陰で私は無事教会に保護されて今、発進前の列車の中からこの手紙を書いています。

人生で初めて行事以外で書いたこの手紙が、もうみんなへ送る最後の手紙になってしまうかもしれない事を、後悔しています。

隣の男の子の風邪は治りましたか?
公園では今日も元気な歌が聴けますか?
お豆腐の値段は変わっていませんか?
もえぎちゃんはお姉ちゃんと仲直り出来ましたか?
ねこのなえ子はアパートの階段前で寝ていますか?
ねりさんは今年もまた植物を枯らしましたか?

私がまた帰れるまで、みんな待っていてくれますか…?
みんなには、まだまだ沢山聞きたい事がありました。

こんなに何も知らないけれど、みんなの事は本当に大好きでした。
だからどうか、私がまた帰れるその時まで、どうか待っていて欲しいです。

さようなら、またいつか。
                えんじ より
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列車が走り出す。走り出した列車の窓から、紙飛行機の形に折った後悔を飛ばした。
紙飛行機は風に乗り空高く飛び上がって、終いには街の空に溶けて無くなってしまった。
それと同時に、私の心の絡まりも少しだけ綻んだ気がした。

2/29/2024, 8:46:09 AM

【遠くの街へ】

あなたは、変わってしまった。もう私と違う生きものになってしまった。私とあなたは同じだと思ってたのに、信じていたのに!
あなたは偽物だった。違う、きっとお前があなたの偽物なんだ私のあなたを、返してよ。

私を置いてけぼりにし、お空の彼方へ飛びたった、何者かを見つめた。

2/28/2024, 9:21:38 AM

【現実逃避】

ひらひら舞うスカート。ゴムの癖がついた髪は空に吸い寄せられて、初夏の爽やかな風に抱き締められる。
抱き締められて、私の沈む羊水が跳ねた走馬灯の中。その音が耳元でくすぐったく囁く 、「こんな現実、逃げ出してしまおうよ」と。
私がすぐさま頷くと、また踊る水玉は言った。
「食べ過ぎると、戻れなくなるから、ちゅーい」
そして区切られた一つ一つに “逃避 行き” と書かれた板チョコレートを差し出す。
私はそれを手に取って、袋から1ピースだけ取り出して口に放り込んだ。

花の香りのする柔らかい日差し。時折頭上を楽しそうに飛んでいく桜の花びらたち。手を伸ばしたが、届かない。花びらはもっと空高くへ飛んでいってしまった。
それを追い掛けて私はまたチョコレートを1ピース。

ぱちぱちと火の粉を飛ばす光の粒。眩しさに瞼を閉じると、沢山の白い羽毛がふわりふわりと空を撫でていた。
だがどれも届かない。懸命に振っている手は、何も掴む事が出来なかった。
また1ピース、取り出して口に放り込むその手を止めた。
「食べ過ぎると、戻れなくなる」
けれど少し考えた後、結局口に放り込んだ。
戻れなくなるなんて、最高だと思ったからだ。

こうしてどんどんとチョコレートを食べてしまって、ふと気付けばもう一つも残っていない事に気がついた。
でも、良いだろう。またあの現実に戻ってしまうくらいなら、一生何も無い世界でいい。

今まで見た美しい風景が私の背後から溢れては、空に吸い込まれていく、ただ私だけを残して。
ついには全ての景色に別れを告げて、私はひとりぼっちになった。
雲ひとつ無い空、抑揚の無い、ただ青いだけのその色を無感情に見つめた。
そんな私の身体に、最後にコンクリートはあたたかいハグをするのであった。

2/27/2024, 5:42:13 AM

【君は今】

今日見た夢の話です。実話

---------------夢---------------

 私にはとても美しい友人がいた。その美しさは容姿だけに留まらず、心まで透き通っているような、そんな友人がいた。
 私には優秀な友人がいた。私とは違い現実世界を確かに踏みしめて、確実に成長していくような、そんな友人がいた。

 私は彼、優秀な友人に言い寄られた。そう、彼は女を見る目が絶望的に無かったのだ。
 私は彼の事が大好きだったから、その場ではっきりと断る事ができなかった。だから猶予をもらった。

 そして私は数日後、なんと身勝手なことか、私の美しい友人を彼に紹介した。素直で彼と同じような向上心も持ち合わせている、ちょうど出会いを欲しがっていた彼女にとっても彼は良い相手だと思ったからだ。嘘じゃない、本当に。

 それ以来2人はどんどん仲良くなっていく。
 美しい彼女から、彼についての話や感謝の言葉を聞く度に、心に出来た傷口を刃物でぐちゃぐちゃと抉られているようで、心地良かった。

 いつも通り失敗だらけの惨めな生活の中から、美しい友人の楽しそうな姿を見つめる日々が1ヶ月ほど続いたある日の事。1個下の後輩に送ってもらった家の前で、私の逃げ場を潰すように優秀な友人の彼が待っていた。

 もちろん声を掛けられる。今まで電話もLINEも全て無視していたので、少し不機嫌な様子だった。
 普段明るく人間のように振舞ってみせていた後輩がいる手前、フルシカトも出来ない。だから何とか挨拶は出来たものの、結局その後彼が詰め始めたとき、私は何も言わずに逃げ出してしまった!

 逃げ出した背後から、怒鳴り声が聞こえる。カス、ブス、逃げんな、クソ女、詫びろ、償え、死ね、死ね、無責任な私は背中で罵詈雑言を浴びて半泣きになりながらマンションの階段を駆け上がる。その罵声の中にはもちろん後輩の声もあった。
 スマホに着信がくる、たくさんくる。おそらく美しい友人からだ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!と頭の中で何度も繰り返しながら、玄関で靴を雑に脱いでお風呂場に閉じこもる。

 ふと鏡を見ると、そこには被害者のような顔をした私がいて、少し笑ってしまった。こいつは何被害者ヅラしてんだよ、と。

---------------目覚め---------------

 目が覚めた。
 夢の中に出てきた優秀な友人は、こちらの世界ではまだ4年ほど待ってくれるようだった
 しかし夢の中に出てきた美しい友人は、こちらの世界ではもう待ってくれてはいなかった。

 彼女は、私の無責任に殺された人間だった。
 だから聞こえないだけで、今もどこからか私への怒りを叫んでいるかもしれない。
 逆に、もう何も思っていないかもしれない。
 私には、分からない。

 君は今

2/25/2024, 9:49:36 AM

【小さな命】

 雨色の空の下、ベランダで水浴びをしているナメクジくんと睨めっこ。覗き込む私の影に入り触覚を引っ込めるナメクジ、気持ち悪い。
 きっとこの姿を気に入る人間なんか殆どいない。ナメクジを映したコンクリートの窪みを見つめると、湿気で髪が酷くうねうねしていた。

 命の大きさは同じだ、大きな命も小さな命も存在しない。けれど命には遠近法が適応されるから、近くから見れば大きく見えて、遠くから見れば小さく見える。
 インスタントラーメンのカップをひっくり返し、底を指先でトントンと叩く。湿気た塩がぺちゃりとナメクジの上に落ちたのを見届けて、部屋に戻った。
 人の目のこんな仕組みのお陰で、我々は不安材料を無事排除し社会を維持する事が出来るのだ。

 髪を濡らしヘアアイロンをかけたら、先程は頭から飛び出ていたツノもヤリも引っ込んでいた。きっと気に入ってもらえる、少なくとも殆どの人には気持ち悪がられない姿になれただろうか。
 酷く散らかった部屋、排除されてしまわないようしっかり蓋をして、外から施錠する。
 空を見上げると鮮やかな水色が見えたが、透明な小雨はまだ足元の水溜まりに波紋を広げていた。

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