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【小さな命】

 雨色の空の下、ベランダで水浴びをしているナメクジくんと睨めっこ。覗き込む私の影に入り触覚を引っ込めるナメクジ、気持ち悪い。
 きっとこの姿を気に入る人間なんか殆どいない。ナメクジを映したコンクリートの窪みを見つめると、湿気で髪が酷くうねうねしていた。

 命の大きさは同じだ、大きな命も小さな命も存在しない。けれど命には遠近法が適応されるから、近くから見れば大きく見えて、遠くから見れば小さく見える。
 インスタントラーメンのカップをひっくり返し、底を指先でトントンと叩く。湿気た塩がぺちゃりとナメクジの上に落ちたのを見届けて、部屋に戻った。
 人の目のこんな仕組みのお陰で、我々は不安材料を無事排除し社会を維持する事が出来るのだ。

 髪を濡らしヘアアイロンをかけたら、先程は頭から飛び出ていたツノもヤリも引っ込んでいた。きっと気に入ってもらえる、少なくとも殆どの人には気持ち悪がられない姿になれただろうか。
 酷く散らかった部屋、排除されてしまわないようしっかり蓋をして、外から施錠する。
 空を見上げると鮮やかな水色が見えたが、透明な小雨はまだ足元の水溜まりに波紋を広げていた。

2/25/2024, 9:49:36 AM