子供心を忘れてしまった私たち。
夢を見ることも忘れていたこの頃、私は久しぶりに小さい頃良く通った公園へ足を踏み入れた。
夜の八時くらいだったから、誰もいなく、とても静かだった。
そして私は、ゆっくりブランコに座って、大きくブランコを揺らした。
大きく感じたブランコも、今では小さく感じられる。
あの頃の私は、どんな夢を見ていたんだろう。
子供のように、鮮やかな夢を見れる日がまた来るのだろうか。
放課後、明日のテストに備えるため、図書館に行こうといつもとは逆方向の道へ進もうとする。
すると、誰かに後ろから手を掴まれた。
「どこ行くの? これから勉強?」
「そうだけど。あんたも来る?」
「私は今日自主練だから!」
「はぁ? じゃあなんでここにいんのよ」
いつものニコニコとした顔をこっちに近づけながら、彼女は話を続けた。茶色ののサラサラとした短い髪からは、ほんのりとフルーツの匂いがする。
「実はねー、自主練しようと思ったら、顧問の先生に勉強しろー! なんて言われちゃって。しかたなく図書館行こうと思ったら、君がいたんだよ」
「そう……。それじゃあ話はそれで終わり? 私も勉強しなきゃいけないの」
「私も一緒にやっていい?!」
「……」
そういえばこの人、部活ではすごい功績を残しているのに、勉強は全く出来ないんだっけ。
私と真逆じゃない。
「いいわよ。その変わり、あまり騒がないでよ?」
「小学生じゃないんだし! 大丈夫!」
ほんとかしら……なんて少し不安になりながら、彼女と一緒に図書館に向かって歩き始めた。
こんな会話をしているけど、実は毎日一緒に帰ってるし、部活も同じ。クラスは違うけれど、それでも唯一の友達……なのだ。
そう思うと、今日はいつもと違うようで、でもいつもと全く変わらない放課後なんだな。
放課後はいつも、彼女と一緒に四季の変化によって姿が変わる木を見ながら、お互い同じ目的地へ向かうんだ。
蝉の声がうるさくて、目を開ける。
窓を開けながら寝ていたから、風でカーテンがゆらゆらと揺れているのが見えた。
そのカーテンの裏に、黒猫が凛と佇んでいた。
とても、綺麗だと思った。目の前にいる黒猫は、どこから来たのかは分からないけど。
ふわっ、と私が欠伸をした瞬間、風が強く吹いて、カーテンが大きく揺れた。
その瞬間、黒猫はどこかへ消えていった。
寝ぼけていたのだろうか。私は不思議に思いながらも、眠気には勝てずそのまままた眠ってしまった。
「ねぇ!ちゃんと真面目にやろうよ!最後の合唱コンクールだよ?!」
と、いわゆる陽キャと部類されるようなとある1人の女子が、泣きながらそう叫ぶ。それと同時に、教室には色々な感情が入り交じる。
あからさまにめんどくさいと言う感情を表に出してる人、もらい泣きしている人、気まずそうにただ下を向いている人……。
でも、そんなことより私は、なぜ彼女がこうやって涙を流しているのかが分からなかった。
「真剣なのは私だけなの……?みんなでひとつになって歌を歌えるのはこれで最後なのに……」
さっきよりも小さな声で、彼女はそういう。
私は知ってる。彼女が裏で人の悪口を言っていること、いじめをしていること、他人の彼氏を奪って遊んでること。
それなのに、こんな立派に涙を流せるだなんて、私にはその理由がわからない。
だって、私の大切な人を奪ったんだもの。私をゴミ箱に向かって突き飛ばしたんだもの。私に聞こえるように悪口を言ったんだもの。
泣きたいのは、こっちだよ。
彼女の涙の理由なんて、きっと大したことじゃない。そうでしょ?
目の前にいる猫の石像の口が、ニヤッと口角が上がる。私は、目の前で起こった光景を見て、体が固まった。
結界をすり抜けたコイツの正体は、私しか知らない。
「お前は勘違いをしている。我は神ではない。だが悪魔でもない。これで分かるだろう?」
コイツはそう私に問いかける。
私は腰につけている刀に手を伸ばす。目の前にいるコイツに刀が効くのかなんて分からないが、反射的にそうしてしまった。
「我と戦う気か?いいだろう。テかゲんはしナいぞ。イイな?」
目の前にいるこいつの声に、ノイズがかかる。そして、そいつの石の体がまるで生きている猫のように滑らかに動いた。
そして、私の目の前に立ってこう言った。
「ココロオドルナ?ムスメヨ」