小鳥貴族

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8/15/2023, 4:02:10 AM

 最近雨が降っていたから、憂鬱な日が続いた。長く続いた雨が止み、太陽が見える。少女は嬉しそうに窓の外の景色を眺めていた。今日みたいな日は外で遊ぶに限る。公園に行って遊んでも楽しいだろうし、庭の水溜りで遊ぶのもきっと楽しい。少女はしばらく考え込んで、公園に行くとに決めた。最近、誕生日プレゼントで買ってもらった自転車に乗りたいと思ったからだ。少女は母親を探して…というところで目が覚めた。今のは、少女が見た夢だった。少女の見た夢は叶うことはない。なぜなら、現実の少女は、足がなかったのだから。

                 『自転車に乗って』

8/13/2023, 5:17:17 PM

 私はね、ストレスが溜まったらカラオケに行くの。そうするとストレス発散になる。日常生活を送る上でストレスはたくさんあるでしょう?だからストレスを避けるんじゃなくてストレスに対処する方法を考えるべきよ。私の場合は学校。今ね、私大学生なの。ストレスなんてないと思う?でも私はストレスを感じてる。友人関係じゃないの。私は幸せなことにいい友人に恵まれてるから。私のストレスは授業も課題も多いこと。しょうもないと思う?でもね、大学生全員がそうじゃなくて、わたしの大学が特殊なの。フルコマなんて当たり前。全休なんてありえない。そのくせ量も質も重視の課題をたくさん出す。こんなんじゃカラオケに行く暇がない?いいえ。私は課題を早く終わらせるタイプなの。出たその日に終わらせる。だから休日がある。成績も悪くないわ。悪くない、というより、良い方。主席で学費も免除されてる。だからこそ、不安なの。いつ主席じゃなくなるのかって。主席じゃなくなったら、周りの人の目が怖い。だからストレスが溜まってカラオケに行く。そうすると課題の質が落ちてるんじゃないかって不安になって、ストレスを解消しようとまたカラオケに行く。悪循環。この地獄は、あと…半年。

……私をこの地獄から救い出してくれるのは、あなた?



                   『心の健康』

8/12/2023, 12:39:59 PM

 小さな手でピアノを触れる男の子の瞳は希望に満ち溢れていた。黒い鍵盤と白い鍵盤を交互に触る。力が足りなかったのか、聞こえてきた音は弱々しい。もう一度、今度は強めに、ボタンを押すように弾く。今度は大きな音が部屋中に響き渡る。男の子は楽しくなってきたのか、指の強さを変えてピアノを弾いた。強さによって音の強弱がつくことに気付いた男の子はこれからどんな音楽を奏でていくのか楽しみだ。

                 『君の奏でる音楽』

8/11/2023, 7:26:09 PM

 私にとってこの麦わら帽子は、大切なものなのです。祖母との思い出が詰まっています。幼い頃、私が気まぐれで農業を手伝うとき、祖母はいつも自分の麦わら帽子を私に被せてくれました。そう、この麦わら帽子です。見ての通り、使い古されてボロボロになった麦わら帽子は、幼い私には格好が悪いように思いました。でも、祖母は「やっぱり似合うね」と笑顔で言ってくれるのです。両親は共働きで殆ど家に居らず、祖父は早くに他界したしました。兄弟もいない。私には祖母しかいませんでした。だから、祖母がそうやって笑ってくれると私も嬉しかったのです。格好が悪いなんて思ったことに罪悪感があったくらいです。
 そんな祖母が五年前に亡くなりました。老衰です。最期は住み慣れた自宅で過ごしたいという祖母の希望で終末期は私たち家族と過ごしました。そして穏やかに家族全員に看取られて亡くなりました。祖母の遺品を整理していると、あの麦わら帽子が出てきました。懐かしくて涙を流している私を見て、両親は私が持っているべきだと渡してくれました。
 この麦わら帽子は今でも私の宝物です。この麦わら帽子を見ていると、昔のことが思い浮かぶのです。祖母の嬉しそうな笑顔が、あの私の全てだった日常が思い出されるのです。
いつまで経っても、私の大切な宝物なのです。

                   『麦わら帽子』

8/10/2023, 5:27:03 PM

 ある女性は少しだけ不思議な体験をした。いつもは人がたくさん乗っているはずのバスが、今日に限っては誰も乗っていない。時間を確認するためにスマホの画面を見るが、時間はいつもと同じ。充電がまだ70%なことに驚いたが、その女性は仕事で疲れていたようで、すぐにバスに乗り込んだ。一番後ろの席の窓側に座ると、次第に眠くなってきたようで、顔が徐々に下を向いている。そしてバスの揺れが心地良くなったのか、女性は意識を手放した。

 女性は静かに目を開けた。すると、バスは止まっており、運転席を見ても運転手はいなかった。不思議に思った女性はバスから降り、すっかり暗くなってしまった道をスマホのライトを頼りに歩き出す。しかし、歩いても歩いても目の前には道しか広がっておらず、引き返すことにした。女性は戻ってきて、バス停を見た。聞いたことがない場所だ。女性はスマホで今の位置を調べようとして気付いた。スマホのライトがつけっぱなしなことに。女性が充電を確認すると、残りがわずかだったようで、ため息を吐いた。すると、バスの中から「おーい」「起きてください」と声が聞こえる。運転手が戻ってきたと思った女性はバスに乗り込んだ。すると突然意識を失った。

 気付くと、バスの中だった。バスは止まっていた。辺りを見回すと、運転席に座る運転手と目が合った。
「やっと起きたんですね、もう終点ですよ。バスに乗ってからずっと寝てたから疲れてるんでしょ?帰れる?」
女性は驚いた。なぜなら、さっきまでバスの外を歩いていたのだから。夢でも見たのだろう、と女性はスマホの画面を見る。すると、充電は残り僅かだった。バスを乗る前は70%だったはずだ。

 女性は運転手にタクシーを呼んでもらい、無事家に辿り着いた。あの夢のような、現実のような出来事は何だったのか。タクシーに乗る際に、バス停を確認すると、聞いたことがある場所だった。あれは何だったのか。もしかしたら女性は黄泉に連れて行かれるところだったのかもしれない。

                      『終点』

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