「私ね、雨の方が好き」
彼女はそう言った。
「だってさ、雨って音を消してくれるじゃん!それに体育嫌いだもん…」
私はふーんと言いながら、窓から外を覗いた。
次の日は大雨だった。
「あーぁ、雨の日って嫌い」
彼女はそう言った。
「聞いてよ、雨で人多いせいでバスで座れなかったの!」
湿気でうねった彼女の髪の毛のカールをじっと見つめながら、そっと櫛で梳いた。
「春の天気みたいな性格」
どうやら私の言葉が彼女にはどうもピンときていない様子で首を傾げた。
「ん?どういう意味?」
「ふふっ」
次の日は晴れ。
桜の花びらは昨日の大雨に流され、ほとんど散ってしまった。
桜散る
「私さ、さっき先輩に告白したの。」
「えー、どうだった?」
「なんと、OKだって!!!」
恋に胸を膨らませる少女達の会話を聞きながら、私は友人とお昼ご飯を食べていた。
「先輩って、何年生?」
「2年生のサッカー部だよ」
ピクっと、目の前に座っていた友人の肩が揺れる。
「サッカーか、凄いね〜。名前は?」
「安達先輩」
銀のスプーンで掬ったオムライスがポトッと落ちて、ケチャップが飛び散った。
ところにより雨
「私ね、貴女がずーっと嫌いだったの!!」
何度その言葉が、喉元まで出かかったか分からない。
「いっつも無理ばっかりしてるよね」
出会った当初はそこまで何とも思っていなかったのに、貴女を知るうちに段々と嫌いになっていった。
「大丈夫じゃないのに大丈夫って言ってさ、私が気づかないとでも?もっと頼ってよ」
わざとらしい笑顔とか、無理して人と話すところとか私に弱さを見せない所とか大嫌い。
前に私が「無理してない?」って心配した事あったよね、そしたらさ貴女怒って本当に気持ちが悪い。
「別に弱みを利用しようなんか微塵も思ってない」
別に貴女と張り合うつもりは無いし、揶揄うつも無いんだよ、ただ無理してる貴女が嫌いなだけ。
でもさ、今日くらいは弱さを見せてくれてもいいんじゃない?
「今回は見てられないよ、話聞くからさ...」
大好きな恋人と別れて、弱り切った貴女が無理して笑ってるのは流石に見過ごせない。
「友達でしょ?」
しばらくしてから、彼女は少しずつ口を開いた。
「...うん、ぁ、あのね、彼氏がぁっ浮気してっ...」
彼女がここまで泣くのは初めて見た。張り詰めていたものが一気に壊れて流れてくるような、そんな感じ。
「だ、誰にも、相談できなくてっ」
溢れ出るものは弱さと悲しみばかりで、私は初めて見せてくれた“それ”をしっかり受け止めようと思った。
「そっか、辛かったね」
可哀想、可哀想だよ、あんなに好きだったのに。
気持ちが晴れるまで付き合ってあげる。
でもね、
浮気相手紹介したの私なんだ。
次の日、私はやけ食いにに付き合った。
○月× 日
今日はりおくんとデート。
もう3回目かなぁ、早いな…
ゲームセンターでりおくんがぬいぐるみ取ってくれてとっても嬉しかった。
深くため息をついて、日記帳を閉じた。
数年前から続けているこの日記には毎日のようにりおくんの事が書いてある。
嬉しかった事、悲しかった事、楽しかった事、辛かった事りおくんと共に乗り越えてきた全ての思い出をここには記してある。
突然ドンと、ドアの開く音がしたかと思い振り向けば仁王立ちの妹がドアの前にいた。
「夜ご飯出来たってお母さんが」
「急に入ってこないでよ!!」
「ノックしたでしょ?」
「返事はしてないよ!」
いがみ合っていると、妹は何かに気がついたらしくこちらに近寄ってくる。
すると、手に持っていた日記をひょいと取り上げられた。
「うわっ、お姉ちゃんまだ夢日記とか書いてたの?現実で彼氏いないからってキモっ」
とうとう見つかってしまった。
それどころか、随分前からこれの存在がバレていたのだ。恥ずかしいやら何やらで穴に入りたい…
もういっその事、一生夢を見てたい。
久しぶりに幼馴染と待ち合わせをした。
幼小中と同じだったので毎日一緒に帰っていたのに高校は別のところに通っているので不思議な感じだ。
何処か気まずい雰囲気の中、「最近どう?」なんて当たり障りのない雑談をしながら歩くと突然思い出したように「あっ!」と彼女は大きな声を出してニコッと笑った。
「どうしたの?ニヤニヤして」
「え〜、どうしよっかなぁ?言っちゃおーかな」
いたずらっ子な笑みを浮かべてこちらを覗き込む彼女に少し嫌な予感がしたから「じゃあもう聞かない」と意地悪を言った。
「ちょっと聞いてよ〜!」なんて言って不満そうな彼女を放って歩くペースを早める。
彼女は慌てて追いかけてきて私のリュックを掴むので驚いて後ろに転けそうになった。
「ちょっと、危ないでしょ」
少しの沈黙の後、彼女は頬を夕日で赤く染めながら秘密を打ち明けるように言う。
「あのね、彼氏できた。」
私の10数年の片想いは結局の所実らなかった。
「え〜!どんな人?」
なんて質問してあげると彼女は嬉しそうに笑う。
本当に可愛い。
「ね、寒いから手繋いでいい?」
「いいよ」
彼女の手を握るととても冷たかった。
「私の手冷たいでしょ?」
「それな、冷たすぎ!私が温めてあげる〜」
「やったぁ」
二人でクスクス笑いながら帰る帰り道。
そうだ、これでいい。
友達のままで、
ずっとこのまま。