「この命消える時まで、剣を捧げ、御身を守り続けることを誓います」
まだ何も知らなかったあの頃、騎士の正装に身を包んで私に跪き、初恋の人は私に忠誠を誓った。
そして、私の初恋はそこで終わった。
あの人にとって私は守るべき存在であり、対等ではなかったから。
そして、私がそれに気づくまで時間はかからなかった。
「主?どうかなさいましたか?」
今も昔も変わらず私を守ってくれるその人が私に問いかける。
「いいえ。何もなくってよ。」
ふふ、と笑って首を振る。
そう。何も無い。失恋したとしても昔も今も距離感は変わらない。
せめてその幸福を私は享受し続けよう。
視点転換
屋敷に火が回る。
逆恨みをした領民の一部が屋敷に火をつけた。
領主夫妻や次期当主は幸いにも留守にしていた。
残っていたのは主だけ。
「主……!」
無礼を承知で扉を蹴破る。
主はそこにいた。
「嗚呼、来てしまったの?
そのままお逃げなさい。」
「なぜ」
「私、何も間違った判決を下していないもの。
それなのに私が逃げるには行かないわ。
でも、あなたはなんにも関係ないから、どうか、にげて」
すっと、頭が冷えた。
「ふざけるな!あんたを置いて行けるか!
俺は、あんたに命を捧げた。
この命燃え尽きようとあんたを守ると、決めたんだ」
俺がそう言うと主は酷く驚いた顔をした。
あの日、まだ幼いあんたに忠誠を、恋心を捧げた。
「なんとしてでもあんたを生かす。どんな手段を使ってもあんたを逃がす。」
俺はそう言って主を抱え、窓から飛び降りた。
今日、彼の船は港に止まらなかった。
暁を待つ夜の中、明日こそはと祈りを込める。
ーどうか、あの人に会えますようにー
もう一度、あなたにお帰りをいいたいの。
あなたが話す、冒険譚を1番近くで聞きたいの。
だから、どうか、もう一度あなたに会えますように。
そんな私の祈りは夜明け前の空だけが知っていた。
所詮世界なんてこんなもの、とそう思っていた。
自分たちの常識を、普通を、大多数にするために、少数を異端として迫害する。
嗚呼、けれど
ー虹彩異色症が呪いだと?はっ、寝言は寝て言え。お前たちはいつの時代の話をしているんだ。
ただの先天的遺伝性疾患が呪いなものか。馬鹿めー
そうやって、私に植え付けられていた常識もどきを焼き払った鮮やかな蒼を見た時、きっと私は生涯初めて、本気の恋をした。
「ドクター、あなたが好きです」
本人を前に言えない気持ちはまだ、胸に秘めていよう。
いつか、あなたに笑って言えるように。
「え、なんて?」
電話越しに聞いたその知らせに、我が耳を疑った。
『だから、ーーちゃんが交通事故で亡くなった、とのことよ。あんた、仲良かったでしょ?お式の日程を今から言うからメモの準備なさい』
母に言われるがまま、急いでメモの準備をする。
電話が切れたあとも信じきれなくて、ただ、書いたメモの内容を見ていた。
ー私、アイドルになるのよー
瞳の奥に輝きを宿して夢を語っていた彼女の訃報。
信じられないまま、通夜の式に参列している。
仲が良かったやつは泣いていた。
棺の窓越しに彼女を見つめる。
「俺、アイドルのお前を応援したかったよ」
胸中を支配する喪失感とともに吐き出した言葉は線香の煙と共に少し漂って消えていった。
人は生まれてからたくさんの初めてを経験し、たくさんの初めてを与えていく。
おそらくその中で1番多くの初めては、知らない人に名前を名乗る、という行為だと思う。
ヘッドフォンを装着し、ひとつ息を吸う。
さあ、今日も世界に一つしかない私の名前を、私を知らない人のために名乗ろうじゃないか。
「本日は配信をご覧いただき、誠に感謝する。
私の名前は____」