幼い頃からずっと考えていた。
どうして自分は生まれてしまったのか。
何故、自分がそれに選ばれてしまったのか。
何度も責務の放棄を、命を捨てる道を考えて、実行に至れなかった。
「世がかつてないほど荒れております。これを収められるのはあなた様しかおられません。」
その結果がこれだと言うのなら、全てを受け入れよう。
ああ、兄上。何故、正しく国を治めて下さらなかったのですか。
「民へ、時を告げよ。暗き夜は明け、新たなる朝が来る。
私に賛同するものは着いてこい!
鳳凰と暁の旗を掲げよ!!」
王族に連なるものなれば、民を苦しみから救うことこそ必定。
厭世家として生きる道はもうやめた。
さあ、反逆だ!
瞳の中に星を飼っているようだ、と、そう思った。
夢を語る彼女の瞳はキラキラと輝き、瞬いている。
「〜〜〜それでね、ってきいてる?」
僕が反応を示さないことに気を害したのか、彼女の瞳が少し翳る。
「聞いているよ。養成所に行くんだろ?それで?」
聞いていたことを復唱するとその影は一瞬で消え、また希望で輝く。
ああきっと、彼女が夢を叶えた時、僕は他人と同じように
一等煌めく彼女を見ているんだろうな、と、そんな予感がした。
「言葉にするの、得意じゃない」
少し拗ねたような声で放たれた言葉に思わず笑う。
だって、あなたが言葉より視線で語ることを私は知っているから。
「貴方が言葉よりも視線や行動で語ることを知っている。
だから別に、言葉にするのはあなたが必要な時だけでいい。」
そうだ。貴方が語ることを可能な限り私は読み取ってみせるから。
言葉はいらない。ただ…
降りしきる雨の音に耳を傾ける。
この、透明で分厚い壁を開けたら、きっともっとしっかり聞こえるんだろうな、なんて、思うだけ。
結局、勇気はなくて開けられない。
「いつか、雨の音を直接聞いてみたいな」
今はまだ、この透明な壁に守られながら聞いているその音を。