あると

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3/27/2025, 3:53:19 AM

『七色』

 神は七色の身体を持っていたらしい。

 虹のように光り輝き、けれども虹のように色が分かれてはいなくて、あんなにはっきりした色でもない。
 淡い光の七色が、コーヒーのラテアートのように細い線で分離しながらも混ざりあった、神秘的な色だったそうだ。

 神の死後、その御姿は選ばれし生き物たちに引き継がれたという。


 ____私の瞳は七色。右目だけ。

 子どものころは綺麗だって囃されて、お気に入りだったこの色。
 でも今はその色のせいで、私は神殿から出られない。

 鳥籠の中には可愛い小鳥。両脚が七色。

 中庭にはゾウ。耳が七色。

 膝上には猫。昼寝中。この子は胴と前脚が七色。

 牧師様によると、神から引き継がれた七色がすべて揃うと神が復活するのだとか。

 見つかっていないのは、左目だけ。

 どんな子が持っているのだろう?私と同じ、この瞳を。
 犬かな、馬かな、ライオンかな。もしかしたら人間かもしれない。

 その子が来て、神が復活したら、私たちはどうなるのだろう?
 自由になれるのかな。それとも死ぬの?はたまた、神に取り込まれたりする?


 わからないけど、いいや。

 退屈な神殿の生活が終わるなら、もうなんでもいい。


 ____だからはやく、見つかってね。左目さん。

12/23/2024, 11:07:44 AM

『プレゼント』

 そういえば、明後日はクリスマスだったっけ。

 街のイルミネーションを見て、ようやくその事実に気づく。
 もともと行事には疎いほうだったけど、こんな直前まで忘れていたのはきっと、一人暮らしをはじめたせいだろう。

 県外の私立大に進学して、親元から離れた。

 友達もいるにはいるが、まあ、類は友を呼ぶというもので、イベントそっちのけで我が道をゆく人ばかり。誰もクリスマスの話題なんて出しやしないのだ。

 忘れていたとはいえ、気づいてしまっては何かしたくなるというもの。

 パーティ……は、さすがに今からじゃ準備が間に合わない。
 ……ケーキ?無理だ。私が作れるわけがない。
 ツリーも、買ったところでそのあとの置き場所に困る。さて、どうしたものか。

 考えあぐねた結果、私に出せた最善の選択は、プレゼントだった。

 誰でもない、自分へのプレゼント。
 
 昨年までは親がくれていたから。自分で自分のプレゼントを選ぶのは、実に「おひとりさま」らしくて、なんだかいい。

 決めてしまうと、それが名案に思えてくるのが私の性だ。
 私は早速、ショッピングモールに向かった。

 
 

12/6/2024, 10:12:40 AM

『逆さま』

 天井に足がついている。

 まさかこんな体験をする日が来るなんて、思ってもいなかった。
 重力に従ってポニーテールが逆だっている。
 スカートじゃなくて良かった、なんて場違いなことを考えてしまうのは、この状況にどうも現実感がないからだろう。

 腕時計を外すと、それは目の前を通過して、私の上に落ちていった。
 
 私だけだ。

 私だけが、重力に逆らっている。

 身につけたものは落ちるし、髪の毛も床を向いている。
 でも、私の体だけは、この部屋で唯一、天井を地と扱っていた。

 不思議なこと。

 けれどもとても単純なことだ。

 私はなぜだか、『逆さま』になったのだ。

11/10/2024, 12:53:39 PM

『ススキ』

 家の近くに、ススキに似た植物が生えている。

 ただ正直、ススキなのかはわからない。

 小さい頃は、それはそれは自信を持って言っていた。

「あ、ススキがあるよ。秋のススキが生えてるよ」

 なんとも懐かしい。

 緩やかにカーブを描いて垂れる穂が何重にも重なって、風に揺らめいている様は、どこからどう見ても、秋のテレビによく映るススキそのものだった。

 それが、ちょっと成長して分別がつくようになった頃。突然に思った。

「あれ?これ、ススキじゃなくないか?」

 ぼんやりと見ていると、世間の言うススキと目の前にある植物は、違うものに見えた。

 見た目はオジギソウなのに、まったくおじぎをしない植物を、見たことはないだろうか。
 そんな感じで、このススキも実はススキではなく別のものなんじゃないか、と思った。だってどこか、違和感を感じるんだ。

 そんな疑問を持ってから、はや九年。

 解決せずに成人である。

 今でも家の近くに生えている、この植物……ほんとうになんなのだろうか。

10/8/2024, 10:43:45 AM

『束の間の休息』

 試合が終わった。
 
 高校三年の夏。最後のインターハイ。決勝。

 同点からの延長、1ポイント負けだったけど、清々しい終わりだった。
 
 悔しくて涙が出るけど、あぁやり切った、って、顔はついつい笑ってしまう。
 汗をかいた体を地面に預け、鋭い日差しを受けて輝く空を仰ぐ。
 疲労した体はもう動く気がしない。暑い。それでも爽やかな気分だった。とても心地いい。

 ……終わった。

 そう思って、そのまま地面に溶けてしまいそうなくらいに脱力した。

 ____その瞬間だった。

 凄まじい衝撃波と爆発音。
 それと同時に、フィールドには大きなクレーターができた。

 力を抜いた体が、無理に緊張をつくって、体中が痛み出した。

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