漂流して3日目
謎の地図を手に入れた俺は、誰も到達していない島を目指して、家族を捨てて船で海に出た。しかし、船は氷山にぶつかり沈没。何とか救命ボートで脱出できたが、多くの仲間を見捨てた罪悪感に蝕まれていた。
遂に飲み水が底をつきだした。食べ物はもちろん残っていない。ボートには助けとなるものは何もなかった。昨夜、貨物船が遠くを横切った時に発煙筒などすべての物資を使い尽くしていたのだ。
「奴らめ、なぜ気付かなかった…」
単に気付かなかったのか、それともわざと俺を見て見ぬふりをしたのか、救うべき命と判断しなかったのか。
俺の頭のなかでは、他者への怒りと憎しみが支配し始めていた。ずっと1人でいると、この有り様である。俺はボートの端で体育座りをして、うなだれた。
「助けてくれ…助けてくれ…」
声にもならない声を1人発していた。
今回のアルバイト採用は見送ると連絡があった。
これで4つだ。
体を痛めてるのもあり、合格できたであろうものも受からなかった。加えて、もう50を越えてしまった。
映画を作り浪費してしまったのもあり、貯金が底をつきそうだ。入選もできず、面白くないと思われてしまった。
1人でいると万策尽きたと感じてしまう…自主映画を編集しながら、これからどうするべきか考えたが今日も具体的な道筋は見つからなかった。
外が明るくなってきた。
昨日、浪人が決まった、今日は予備校を探しに行く。
説明会に参加し話を聞いた。端的にここへ来れば来年度は大きく飛躍すると話していた。
終わった後に俺の心の中で感じたのは、もっと勉強すれば良かったと悔やまれただけだった。来年は頑張りたいという思いもない。
家に帰ると母がいつものように夕食を用意していた。焼き鮭と味噌汁といったいつもの食事だったが、母の眼差しからは普段以上に熱意を注いでくれているように感じられた。
「…できた…」
母が俺に話したいことがあるのは明らかだったが、優しく俺を見ているだけだった。俺の中で込み上げてくるものがある。思いを押さえ込もうとするのを止めた。
「なぁ…」
俺は話すことを決意した。
学生の頃は、海外に憧れていた。
今いる世界と違うところに行きたかっただけではなく、自分の才能、ポテンシャルを活かせるのは日本ではないと、友達や家族と一緒にいるなかで思っていた。
アフリカでは、貧困にあえぐ子供達が…
教育が行き届かないこの国では…
新聞やネットから受けとる情報は私に向かって助けを求めていると思っていた。世界を良くしたい、困っている人を助けたかった。
その思いを胸に秘め、20代でアフリカで教師をした。海外でも仕事内容が変わるわけでもない。目の前の生徒に全力で指導し、同僚たちと切磋琢磨したつもりだった…
ここでの経験は、かつて持っていたはずの利他的な思いをお前のエゴでしかないと残酷に切り捨てたのだ。
2年の勤務期間を終え帰国すると、今いる場所で頑張ろうという気になっていた。以前は身を乗り出してみていたニュースも残念ながら、自分には関係のないことのような気すらした。同時に自分はこの程度だという負け犬根性が腰を据えてしまった。
30代に差し掛かった今、配属された学校で懸命に勤務している。身の丈にあった仕事をしながら…
(終わってしまった…)
約500ページの大作を読みきった最初の感想は、もっと読みたいという腹6分目ほどの空腹感だった。著者は、たった1人で神による宇宙の創造から地球に生命が生まれるまで、そして人類の歴史を古今東西の神話と混ぜて、描ききっていた。
次の本に行く前に、今回の本を咀嚼しきりたかった。それから学校が終わると、僕はずっと図書室に籠り、1人関連する書籍を読み漁った。物語の登場人物やお話よりも神話や創作について考えるきっかけとなったのだ。そして、世界中の神話や伝承にも興味を持った。
(著作物にとって著者こそ創造主に違いない)
気がつけば、ものを産み出すということに貪欲になったのだ。