〜最初から決まってた〜
我が家には猫が3匹いる
全てオス猫だ
別にオス猫が好きだという訳ではなく
事情があって結果オス猫ばかりになった
この光景を見ると私は
過去に出会った占い師を思い出す
誰かに勧められたか、偶然入ったお店だったか
年季の入った建物の扉を開けると
白髪頭の目立つその女性は笑顔で迎えてくれた
彼女は私の過去、現在について話してくれた上で
当時の悩み事に対する“まじない”を教えてくれた
そして最後に未来について話してくれた
さすがに未来のことは…
と、話半分で聞いていたはずなのに
なぜか十数年経った今でも所々残っている
その“所々”の部分が全て現実になっていた
これは単に私が統計学的に多いパターンに
当てはまった人生を送っているだけなのかもしれない
だが、全ての物事は必然なのかもしれないとも思う
あの日あの時
誰に出会い
何を聞き、何を見て
どう行動し、何を感じ、何を記憶し、どう進むか…
どうせ最初から決まっているのだから
行き詰まった時は
ケ・セラ・セラ
時に身を任せてみようか
〜鐘の音〜
夕焼け小焼けで日が暮れて
闇が後から追ってくる
伸びた影まで怖くなり
思わずその場を逃げ出した
山のお寺の鐘がなる
門限破ってごめんなさい
私を包む優しい声
1人でとても怖かったの
お手手繋いで皆帰ろう
カラスと一緒に帰りましょ
〜目が覚めるまでに〜
ここは夢の中
薄汚れて暗く細い路地を
得体の知れない存在から
逃げている
なぜか亡くなったはずの祖父も
私を守るように走っている
私の手の中には秘密箱が1つ
必死に開けようとするが
びくともしない
その時、路地の先に
大通りを走る車が見えた
秘密箱を壊して開けよう
私が言うと祖父は険しい顔つきで
止めろと言う
確かに中のものが壊れるといけない
いや、そもそも中身は何なのか…
なぜ私は必死に開けようとしているのか…
開けば得体の知れないものは消えるのか…
得体の知れないものは本当に危険な存在なのか…
秘密箱を見つめると薄ら隙間が出来ている
開けなくてはいけないのか?
祖父が問う
分からない…
けれど、開く可能性が見えると中が見たくなる
開くと私はどうなるのか…
ただの箱だったそれは
危険な匂い漂う魅惑の箱になり私を惑わす
〜病室〜
エレベーターを降りて
ナースステーションを通り過ぎた正面の部屋
それが祖母が居る病室だ
引き戸を開けベッドの方へ目をやると
祖母は上体をお越した姿勢で
窓越しの外を眺めていた
向かいの患者さんに軽く会釈をすると
祖母のベッド脇に置かれた椅子に腰掛ける
ありふれた会話を交わした後
お土産のプリンを一緒に食べるため準備をする
スプーンを探していると部屋のどこからか
テレビの音が聞こえる
どうやら歴史上の偉人についての特集のようだ
『偉人』と言う言葉に
過去の苦い経験を思い出す
小学5年生だった私は
『尊敬する偉人は誰』と言う問いかけに
迷わず「おばあちゃん」と答えて
クラス全員から笑われた
当時の私はなぜ笑われているのか分からず
ぎこちない苦笑いを浮かべるのが精一杯だった
友人「何かすごいことをしたの?」
私「ううん…」
友人「有名人なの?」
私「ううん…」
友人「じゃあ偉人じゃないね」
言い返したいのに上手く言葉が見つからず
泣いてしまう始末だった
あの頃を思い出し、思わずクスッと笑ってしまうと
祖母が不思議そうな顔をして私を見ている
手に持ったスプーンを祖母に渡し
2人で一緒にプリンを食べる
ねぇ、おばあちゃん
あなたは私のことすっかり忘れてしまったけど
私の尊敬する偉大な人はおばあちゃんだよ
〜明日、もし晴れたら〜
『止まない雨はない』
学校の図書室でそう書かれた本を見つけ
思わず足を止め、訝しげな眼差しで本を睨む
雨と晴れはよく人に例えられるが
雨はしばしば印象の良くないものとして使われる
晴れが、明るい・人気者・人生の成功者なら
雨は、暗い・控えめな人・苦労人のように
僕は雨が好きだし、悪く使われることにも
憤りを感じる
「納得いかない」
思わず呟いてしまった
「本当、納得いかないよね。」
横から突然声がして視線を向けると
上級生らしき彼女が眼鏡のズレを直しながら
同じ様にタイトルを訝しげに見ていた
「どうして雨ってこうも
悪く言われちゃうんだろうね。
私は雨が降った時の静寂の中に聞こえる雨音が
すごく好きなんだよなぁ。」
彼女がふんわり笑みを浮かべて言う
それがなぜだか嬉しくて
「そうなんです、
雨音って癒し効果も絶対ありますよね。
そもそも雨が降らなければ植物も育たないし
飲み水もなくなる。
それに雨を人に例える時も
悪い意味で使われるけど
雨もその人の本質もどちらも
よく知らないのに悪く言うなって思うんですよね…」
ついつい自分の意見を
捲し立てるような早口で語ってしまった
恐る恐る彼女の表情を見ると
やはり呆気に取られている
恥ずかしくなり、その場から逃げようとした時
「すごい…同じこと考えてた人が居たんだ」
彼女は瞳を潤ませ、期待と喜びを含んだ表情で
自分を真っ直ぐ見ていた
その表情に目を奪われ動けなくなってしまう
心の中でポツポツと地面を打つ雨音がする
降り始めた雨は
顔を出したばかりの小さな芽に
恵みの雨として降り注ぐ
時に晴れの恵みを受け
またある日は雨の恵みを受け
ある時は晴れの試練を受け
またある日は雨の試練を受け
そうして強く丈夫に育んでいく