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〜病室〜

エレベーターを降りて
ナースステーションを通り過ぎた正面の部屋
それが祖母が居る病室だ

引き戸を開けベッドの方へ目をやると
祖母は上体をお越した姿勢で
窓越しの外を眺めていた

向かいの患者さんに軽く会釈をすると
祖母のベッド脇に置かれた椅子に腰掛ける

ありふれた会話を交わした後
お土産のプリンを一緒に食べるため準備をする

スプーンを探していると部屋のどこからか
テレビの音が聞こえる

どうやら歴史上の偉人についての特集のようだ

『偉人』と言う言葉に
過去の苦い経験を思い出す

小学5年生だった私は
『尊敬する偉人は誰』と言う問いかけに
迷わず「おばあちゃん」と答えて
クラス全員から笑われた

当時の私はなぜ笑われているのか分からず
ぎこちない苦笑いを浮かべるのが精一杯だった

友人「何かすごいことをしたの?」
私「ううん…」
友人「有名人なの?」
私「ううん…」
友人「じゃあ偉人じゃないね」

言い返したいのに上手く言葉が見つからず
泣いてしまう始末だった

あの頃を思い出し、思わずクスッと笑ってしまうと
祖母が不思議そうな顔をして私を見ている

手に持ったスプーンを祖母に渡し
2人で一緒にプリンを食べる

ねぇ、おばあちゃん
あなたは私のことすっかり忘れてしまったけど
私の尊敬する偉大な人はおばあちゃんだよ

8/3/2023, 4:36:38 PM