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3/10/2026, 9:46:02 PM

愛と平和


イエスキリストは人間の基本スペックを見誤ったんではないかと思うんだが。

隣人を愛せよ


至極真っ当なこの話で『人間』は結局『隣人』とする範囲が究極に狭い。
『愛』もある『平和』もある
その中で圧倒的に『隣人』を作れない弩級のコミュ障である人間に所詮平和は作れない。

多様さを認め合うという理想も結局は欲で潰した。人は心弱い生き物だから理想という美しさの同調では統制出来ない。

今、80年なんとか続いてきた理想の檻が壊されつつある。内側からがん細胞が食い破るかのように統制されなかった何かが理想という免疫を食い殺そうとしている。
抗がん治療のようだと思う、戦争は。
ただし、治すためではなく滅ぼす為の。

抗がん剤がもろとも全てを焼け野原にして
何もかもを奪った後で、新しい細胞を移植して、
その新しい細胞が定着する。

今の人間に『新しい細胞』なんているか?
あれ程の痛みを知って学んだ道を、あっさり80年で捨てようとする、そんなガン細胞が生まれる人間に。

増え過ぎた人口、滅ぼされる環境、食い尽くされる資源、どっちがガン細胞かわからない。

『愛』はある『平和』もある
でも圧倒的に『自分以外への思いやり』がない

人は滅びるだろうか。
まるで罪と罰のようだ。
自分たちで自分達に与えるかのように
今日もまた何処かで戦争が起こる

3/8/2026, 11:01:45 PM

お金より大切なもの


侍魂ってなんだろうなぁ。

ふと考え始めると止まらなくその答えを探して始まったはずの奉公は2年以上経っても答えが出ない。
そもそもこれって奉公って言えるのか?
苦虫を噛み潰した顔をしている自覚はある。なんせ給料をまともに貰った事がない。
いや、正確にはまだ社長業を受け継ぐ前の話だが。酒にパチンコに甘味にと自堕落すぎるかつての主人は、今は重責を降ろした事でさらに自由になっている。今頃何処かで何処かのグラサンと楽しくお馬を見に行っている事だろう。

経費計算をすれば赤字ギリギリの放物線を描き続ける経済状況で仕事も探さずのんべんだらりとするのは相変わらずでため息が溢れる。

ただ一つ昔と変わったのは心残りを手放したからだろうか、昔よりずっと明るくなった、そんな気がする。

記憶も疎な頃に逝った父の言葉を思い出す。
オセロの記憶くらいしかない父の、最後に遺した言葉を姉上と2人で必死になって縋りついていた頃、見つけた鈍く銀色に光る何かに見出したのは今思えば父が遺したカケラだったのかもしれない。

『たでーま。なんつー顔してんのよ社長』
のほほんとした顔をして戻ってきたかつての元社長は手に持った菓子の一つをデスクの端に置くとどかりと目の前のソファーに座り込む。

『赤字ギリギリなんすよ。』

半眼で置かれた菓子を力任せに開けて頬張ると甘味が脳を癒してくれる。嫌だな、僕まだ糖尿になりたくないんですけど。
言外にどっかの誰かが遊んでばっかりなんで、と込めてため息をつくと目の前の男はオイオイオイと逆にこちらに呆れたように声をかけた。

『お前ね、世の中金金金金って金ばっかりだと老けますよコノヤロー』
次々と菓子を口に頬張っていく姿にアンタ糖尿酷くなりますよ、と声をかけてからふと思った事を口にしてみる。

『お金ないと困るじゃないですか。それ以外に大事なものってあるんですか?』

ふとしたキッカケに過ぎなかった。
ただ、ずっと聞いてみたかった。目の前のこの男にとって大切なものがなんなのか。

『ハァ?!』
わかりやすく狼狽し始めた姿は出逢った頃には無い姿。昔はのらりくらりと両手から溢れる水のような男だった。今は、そう。ちゃんと手を握れるくらいの自信がある。僕たちはちゃんと家族だから。
『いや、金より大事なものなんてよぉ…』
モゴモゴと視線が忙しなく動く。 

出逢ったからいろいろあった。いろいろあり過ぎてたくさん変わってしまったものがある。
少なくとも目に見える範囲では。でも変わらないものがある。たとえば照れた時の反応とか。

『お前たち以外何があるってんだよ、俺に』
斜め下を向きながらズズズと勢いよくいちご牛乳を飲み干す姿とか。

さっきまで抱えていた赤字まっしぐらの経済状況への不満が笑いに変わる。そうですね、アンタ僕らのこと大好きですもんね。
ぼくらもずっと変わらなかった、変わろうとしても変われなかったものがある。

下を向いたつむじの中身はあいもかわらずなのに、そこに見たかつての鈍った銀色が少し輝いて見えたことに安堵した。

『明日もいいことあるといいですね』
『そうだな』

侍魂の答えはまだ見つからない。
見つからなくてもいいかもしれない。

いつか見つかるその日まで、
ずっとみんなで居られたら
多分きっと、それがいい。

3/7/2026, 11:40:19 PM

月夜


暗闇色のビロードの中に一際明るい月が輝く夜は不思議な事が起きそうな気がする。

冬がそろそろ今年も眠りについて春が目を覚ますそんな夜、夜空灯る大きな満月がこちらの心も照らしてくれる様だった。

3月の月はworm moon

春の気配に目を覚ました命たちが温かく始める世界にひょっこり顔を出す。そんな夜。

私は手にしたパワーストーンをベランダに出す。
月の光に導かれ、新しい世界が開けるように。
一際月の光が当たる場所に願いを込める。

『どうしたの?』

不思議そうな顔をしてこちらを見ながらかかる声に内緒話をするように小さな声で返す。

『月がとても綺麗だから』

真っ黒ではない、真っ暗な空に明るく明るく輝くお月様。あんな風になれたらいいなと。

『知ってる?今年の3月5日って特別な日なんだよ。』
『あぁ…』
同じ様にベランダに出て空を見上げる顔は今朝のテレビを思い出しているのだろう。

天赦日と一粒万倍日と大安と虎の日が啓蟄の日に重なる。何かを始めるのに相応しい日

『次は68年後らしいよ』
凄いよねぇ、と話せばあぁ、だから新しく財布買ったんだね、と返される。この関係が心地よかった。

何かを始めるのにこんなに相応しい日はない。
何か趣味を始めても良い。
新しい勉強でもしてみようか。
仕事を辞めて新しく始めるのもいい。

新しく始めたら終わりに出来るものが
何かの糧にできないだろうか。

お互い黙って空を見上げる。
月光はとても穏やかだった。
沈黙は好きだけど、何か言ってくれないか。
ふと、隣にいる顔を覗き込むとじっとこちらを見ているのに気がついた。
居心地が悪いじゃないか。
戸惑いを隠して笑いかける。どうしたの、と。

『いや…』
視線を逸らされると逆に気になる。
『なに、どうしたの?』
身体の向きを空から彼に振り返ると室内のライトが赤くなっている耳を照らす。
『ごめん、まだ寒かったよね。部屋に戻ろうよ』

慌ててサンダルを脱いで部屋に戻ろうとする手を捕まえられた。
『違う違う、そうじゃなくて。』
歯切れの悪い珍しい姿に今度はこちらが疑問を抱く。
『どうしたの?』
最初と逆になった構図に返ってきた答えはまた同じだった。
『月がとても綺麗だったから』

その意味を知るのは月と、月の光に照らされたパワーストーンだけかもしれない

3/6/2026, 11:01:07 AM




『いってらっしゃい』

見送るために大きく振った手を今もまだ振り続けている。



鎮魂を奏でる鐘の音が鳴り響く。
今年も変わらずやってきたカレンダーの日付を見ては押しつぶされる程の痛みが胸に宿る。

今日も明日も明後日も
1日は同じ様にやってくるのにたった一つだけが戻らない。

もしかしたら もしかしたら

カレンダーをめくるたびに蝋燭が溶けるように帰りを待ち続ける手は重くのしかかった。
どこかで区切りをつけなくてはいけない。

来年こそは 来年こそは
あの日からずっと願ってる。



朝が来るのが怖くなった。
変わらないのに変わってしまった明日。


もしかしたら もしかしたら

今年もこの日がやってくる。
5回も過ぎれば買い替えられたカレンダーの日付に◯をつける事すら避けるようになった。
日々の忙しさを求める様に。

来年こそは もしかしたら

10回過ぎてしまえばかつての凄惨なほど水に流された街はひとかけらの痕跡を残して新しい日々に進み始める。過去になる事が怖い。
震える手でカレンダーに◯をつけた。

15回目がやってくる。
掲げた手を今も下ろせない。
『おかえりなさい』が言いたい。
それだけの事が果たせない。

でも今年こそは 今年こそは。

3月のカレンダーに一つだけ
赤い文字でバツをつける。
掲げた手を大きく振るのだけは変わらずに
願う想いを少しだけ変える。

ここにいるよ。
待っている。
早く気づいて 帰って来て。

鎮魂の鐘が今年も鳴り響く。
ずっとずっと待っている。
君に届けと、待っている。



※すずめの戸締り良かったです。

3/5/2026, 1:03:01 PM

たまには


コーヒーばかり飲むから白いコップにうっすらと茶色のシミが付いた。

普段と変わらない日常のなかで積み重なる疲れのようにこびりついたその茶色は擦っただけでは簡単には落ちてやらないぞ、という気概を感じるほどに頑固だった。

たまにはお茶にしてみようか。

ゆっくりと温めたコーヒーカップにお湯を注ぐ。
茶色のラインにまでお湯を入れれば半透明な世界にうっすらとした茶色がみえるような気がした。

ティーパックを淹れてクルクル回すと沁みるでた緑に浸食されていく。半透明な薄緑の世界はどんどん滲み出した濁って緑についには見えなくなった。

カフェインに慣れた体にお茶が沁みる。
ふと窓際から漏れる日差しにとっくに朝になっていた事に気がついた。
眠気覚ましに飲み続けたコーヒーによって荒れた胃は熱めのお茶が喉を通り胃にたどり着くたびにじんわりとした痛みを告げる。

目に痛い光から逃れるように立ち上がってカーテンを閉めようとすると反射したガラスには目の下を茶隈に染めた不健康そうな顔が映り込んだ。
そこではじめて自分が疲れていた事を知る。


人は限界を超えると超えた事すらわからないらしい。カップに残ったお茶を勢いよく飲み干すと、しつこい程に忌々しい茶色が顔を出した。

はー。

胃の底の底から漏れ出たため息は地獄の底からのように重く響く。その響きは地獄の釜の蓋を開けて、ずっしりと肩にのしかかった。

疲れた。

真っ白なカップの中には目の下の隈と同じ色をしたしつこいまでの頑固な疲れ。

たまには何もかも忘れて寝てもいいんじゃないか。たまにはいいだろ、たまには。

全て放棄すると決めて終えば
あとはカップをハイターにつけて布団に戻った

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