NoName

Open App




『いってらっしゃい』

見送るために大きく振った手を今もまだ振り続けている。



鎮魂を奏でる鐘の音が鳴り響く。
今年も変わらずやってきたカレンダーの日付を見ては押しつぶされる程の痛みが胸に宿る。

今日も明日も明後日も
1日は同じ様にやってくるのにたった一つだけが戻らない。

もしかしたら もしかしたら

カレンダーをめくるたびに蝋燭が溶けるように帰りを待ち続ける手は重くのしかかった。
どこかで区切りをつけなくてはいけない。

来年こそは 来年こそは
あの日からずっと願ってる。



朝が来るのが怖くなった。
変わらないのに変わってしまった明日。


もしかしたら もしかしたら

今年もこの日がやってくる。
5回も過ぎれば買い替えられたカレンダーの日付に◯をつける事すら避けるようになった。
日々の忙しさを求める様に。

来年こそは もしかしたら

10回過ぎてしまえばかつての凄惨なほど水に流された街はひとかけらの痕跡を残して新しい日々に進み始める。過去になる事が怖い。
震える手でカレンダーに◯をつけた。

15回目がやってくる。
掲げた手を今も下ろせない。
『おかえりなさい』が言いたい。
それだけの事が果たせない。

でも今年こそは 今年こそは。

3月のカレンダーに一つだけ
赤い文字でバツをつける。
掲げた手を大きく振るのだけは変わらずに
願う想いを少しだけ変える。

ここにいるよ。
待っている。
早く気づいて 帰って来て。

鎮魂の鐘が今年も鳴り響く。
ずっとずっと待っている。
君に届けと、待っている。



※すずめの戸締り良かったです。

3/6/2026, 11:01:07 AM