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月夜


暗闇色のビロードの中に一際明るい月が輝く夜は不思議な事が起きそうな気がする。

冬がそろそろ今年も眠りについて春が目を覚ますそんな夜、夜空灯る大きな満月がこちらの心も照らしてくれる様だった。

3月の月はworm moon

春の気配に目を覚ました命たちが温かく始める世界にひょっこり顔を出す。そんな夜。

私は手にしたパワーストーンをベランダに出す。
月の光に導かれ、新しい世界が開けるように。
一際月の光が当たる場所に願いを込める。

『どうしたの?』

不思議そうな顔をしてこちらを見ながらかかる声に内緒話をするように小さな声で返す。

『月がとても綺麗だから』

真っ黒ではない、真っ暗な空に明るく明るく輝くお月様。あんな風になれたらいいなと。

『知ってる?今年の3月5日って特別な日なんだよ。』
『あぁ…』
同じ様にベランダに出て空を見上げる顔は今朝のテレビを思い出しているのだろう。

天赦日と一粒万倍日と大安と虎の日が啓蟄の日に重なる。何かを始めるのに相応しい日

『次は68年後らしいよ』
凄いよねぇ、と話せばあぁ、だから新しく財布買ったんだね、と返される。この関係が心地よかった。

何かを始めるのにこんなに相応しい日はない。
何か趣味を始めても良い。
新しい勉強でもしてみようか。
仕事を辞めて新しく始めるのもいい。

新しく始めたら終わりに出来るものが
何かの糧にできないだろうか。

お互い黙って空を見上げる。
月光はとても穏やかだった。
沈黙は好きだけど、何か言ってくれないか。
ふと、隣にいる顔を覗き込むとじっとこちらを見ているのに気がついた。
居心地が悪いじゃないか。
戸惑いを隠して笑いかける。どうしたの、と。

『いや…』
視線を逸らされると逆に気になる。
『なに、どうしたの?』
身体の向きを空から彼に振り返ると室内のライトが赤くなっている耳を照らす。
『ごめん、まだ寒かったよね。部屋に戻ろうよ』

慌ててサンダルを脱いで部屋に戻ろうとする手を捕まえられた。
『違う違う、そうじゃなくて。』
歯切れの悪い珍しい姿に今度はこちらが疑問を抱く。
『どうしたの?』
最初と逆になった構図に返ってきた答えはまた同じだった。
『月がとても綺麗だったから』

その意味を知るのは月と、月の光に照らされたパワーストーンだけかもしれない

3/7/2026, 11:40:19 PM